第三章 エッダの物語 招待状

エッダの決意


 エッダ・ハスプブルク・ロートリンゲンは、始めての休暇をいただき、ウィーンへ帰ってきた。


 両親の画策で、夏の舞踏会フェット・アンペリアルの招待状が届き、初めての社交界でデビューとなったが……

 シャルル枢機卿がなにやら画策していた。


 華やかな舞踏会の裏側で、大人たちがきな臭い会合を行っていた。


     * * * * *


 エッダ・ハプスブルグ・ロートリンゲンが十五になったとき、肩や足の付け根に痛みを感じ始めた。

 進行性骨化性線維異形成症(しんこうせいこつかせいせんいいけいせいしょ)の兆候であった。

 通常十歳前後で発病するのだが、珍しくこの年まで兆候は見られなかったのである。


 ある程度覚悟はしていた両親ではあったが、やはりショックは隠せなかった。

 特に母親であるヘディの嘆きは深かった。


 第一次世界大戦でオーストリア帝国は解体したが、第二次大戦が違う形で終了した結果、ナチスが公用徴収した領地などがすべて返還され、ささやかながら一族は貴族として、それなりに生活ができていた。


 エッダたちはウィーンから100キロほどいった、ペヒラルンの近くの、アルトシュテッテン城に住んでいた。


 そのアルトシュテッテン城の中で、両親は家庭教師をつけ、ほとんど外出などさせず、家の中でも激しい運動などはさせなかった。

 いいのか悪いのかはわからないが、それゆえ発病が遅くなったのだろう。


 その為か、エッダは小柄で華奢、母親のヘディに似て、美しい少女であったが、女性としての嗜みなどの知識は、皆無に近かった。


 聡明なのは間違いない。

 両親は病気のことは何一つ言わないが、エッダは自分の境遇が普通ではないと感じていた。


 有り余る時間を、読書に費やしていたこの少女は、自分の足の親指がおかしいことにきずき、そこから自らの病が何であるか、大体は理解できている。


 ……私は長く生きられない……


 症状が進行したら、神のもとに行こうと決意していた。


 このエッダの決意を知っているのは、時々やってくるシャルル枢機卿だけであった。

 シャルル枢機卿は、エッダの父とは懇意にしており、その関係で、エッダの悩みなどもよく聞いていた。


 ある時、そのシャルル枢機卿がたずねてきた。

 両親と長々と話をして、そして枢機卿は、なにかエッダに耳打ちして帰っていった。

 しばらくして、両親はエッダを呼んだ。


「エッダ、薄々は察しているようだが、お前の病気は進行性骨化性線維異形成症(しんこうせいこつかせいせんいいけいせいしょ)、不治の病だ、現代医学で治せない……」


「しかし、先ほどシャルル枢機卿が、治療できる方法を示してくれた」

「私たちとしてはそれにかけようと思うが、その為には条件があるそうだ……」


「帰り際に枢機卿が教えてくださりました、私はその条件を承諾したいと思います」

「お父様もお母様も、辛い言葉を云われなくてもかまいません、アメリカと聞きました、すぐに向かいます」

 

 翌日、シャルル枢機卿が直々に迎えに来て、エッダは修道女の服装を着て、そしてアメリカのマサチューセッツ州ケンブリッジの、小さな家に向かったのです。


 いろいろありましたが、エッダはミコの事務担当補助になり、側女のチョーカーを授かったのです。

 後で知ったのですが、子宮内膜症、卵巣がんにもなりかけていたようです。


 その後、報告に帰ってきたエッダを見て、安堵した両親でしたが、すぐにエッダはアメリカのアーカンソー州のホットスプリングに戻っていきました。



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