『いかがなものか』


「あら、ベネデッタさん、珍しいところにおられるのですね」

 と、声をかけてきた女がいました。 


 ナオミ・ハゲル、アマゾネスの一人、ミトリ・ハゲルの妹です。

「ナオミさんか、そういえばハウスキーパー事務局に勤務していたのよね」


「聞いていますよ、ベネデッタさんの暗い顔の原因を」

「そう、私こんな事は苦手で……どうなるのかと思うとね……」


「そんなに気にする事はありませんよ、皆さん、誤解されているようですが、サリー様ってお優しいのですよ」

「それに今回の話は、ハレムの話が絡むわけではないでしょう、マルスで初めての魔法系の任官課程、設立趣旨の話と思いますよ」


「そういわれると、少し元気が出そうね」

「天下のアマゾネスの一人であるベネデッタさん、下を向いている姿は似合いませんよ」


 でも、事はそんな簡単な話ではなかったのです。


 一時間後に、ハウスキーパー事務局に出頭したベネデッタにサリーが、

「ベネデッタさん、デモレーの八年制高女の件ですが、今までに無い医療魔法専門の八年制高女とか、まだ任官していない女生徒に、魔法を許可するのは『いかがなものか』、という意見があるのです」


「お言葉ですが、何が問題なのでしょう?」

「任官前の者に、魔法使用を許可した例は無いのです」

「多分エラムの『奉仕の魔女団』を視野に入れての計画でしょうが、奉仕の魔女団員は女官の中より選抜して、ハレム内の実業学校で教育しています」


「曲がりなりにも、ヴィーナス様に身を捧げる誓いを立てた者たち、ヴィーナス様のご命令なら、身も心も命も差し出す覚悟を固めているからこそ、寵妃ではないが、特例で魔法使用の力が、寵妃並みに強化されているのです」


「そしてその力の使い方を、徹底的に学ぶことで、寵妃以上に魔法が使えるようになっているのです」


「その他のエラムの魔法学校でも、基本はヴィーナス様の女奴隷が前提です」

「一応女官補の資格を与えられていますので、もしヴィーナス様のご命令があれば、女官に順ずる行動が要求されます」


「このことについては、制度上拒否は出来ますが、実際は拒否はありえません」

「エラムで一般女官がヴィーナス様のご命令を拒否すれば、不名誉な死を受け入れていただくことになります」

「このことは、メイドの貴女なら理解しているはずです」


「しかしマルスの女官任官課程においては、生徒は任官していません」

「ヴィーナス様も命令はお出しになりませんし、生徒本人も拒否が出来るようになっています」


「医療魔法といえど魔法です、人は簡単に殺せるのです」

「ましてその気になったら戦闘魔法もつかえるはずとのことです、『いかがなものか』というのは、そういう意味です」


「では……分かりました……」

 これは駄目と感じたベネデッタ、あっさりと引き下がる気持ちに傾いています。


 サリーさんが、

「ベネデッタ・アルクーリ、貴女も献上品になるのですよ、バレアレスの繁栄を、その身に背負っているのでしょう?」

「簡単に引き下がってどうしますか!『いかがなものか』という理由を吟味してください」


「つ・ま・り、『百合の会議』を通るすべがあるという事ではありませんか?」

「とにかく今日は非公式の訪問なのでしょう、確か正式には明日の夕食前でしたね、アポイトメントは」

「私もこの後用事がありますので、明日の夕食前にお待ちしています、できれば有意義な夕食でもとりたいものですね」


 サリーさんはこういうと、ナオミ・ハゲルを呼び、

「ベネデッタさんの、ニライカナイでの滞在の面倒を見てあげてください、悩み事もおありのようです」

「軍人さんですから、事務手続きは不得意と思いますので、手助けしてあげなさい」


 このように云ったのです。


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