椿姫のモデルと妹


 言葉とともに、眉間を貫かれた男の死体が燃え上がります。

 暗闇を赤々と照らすように男が燃える……いいようのない恐怖が、その場を支配します。


 一人の男が奇声をあげて逃げだすと、後を追うように逃げ始めます。

「やれやれ、面倒も終りですか?ん、貴女たち、何故いるの?」


 抱き合って、怯えている姉妹に問いかけると、

「私たち、本当にシュノンソーへ行きたいのです」

「あの男たちが、協力するなら送ってやると、お願いです、せめて妹だけでも」

「ドアを開けるわ、乗りなさい、シュノンソーへ送ってあげましょう」


 二人を収容して、車はシュノンソーへと走り始めます。

 相変わらずコミューン道を選びながら、美子さんはかなりのスピードで走ります。


 中ではティアとアヌーク、が二人の相手をしています。

 ガルムが尻尾などふって、愛嬌(あいきょう)を振りまいています。

 どうやらティアが、ディアヌさんの妹ということを理解したようで、まぁゴマすりなのでしょうね。


 リュシエンヌさんは、ガルムが怖いので助手席に避難しています。

「美子さま、あの二人、どうされるのですか?」


「シュノンソー城へ戻り、希望するなら最後のシャトルに乗せてあげますよ」

「どうやら姉は夜の婦人、姉としては妹を助けたい一心なのでしょうね、さっきのは姉のたくらみかもしれませんね、まぁ姉の方は後でお仕置きしてあげます」


 無事にシュノンソー城、といっても何もありませんがね。

「ねぇリュシエンヌさん、ティアとアヌークを地下のステーションへ案内してくれない」

 三人が車から降りて行くのを確認し、美子さんは姉を呼びました。  

 

「さて、シュノンソーに着きましたよ、茶番劇に乗ってあげたのだから感謝すべきでしょう」

「連れて行って下さい、ブロワでも言いましたが、せめて妹は……」


「マルスに行きたいのでしょうが、さてどうしますか、死霊のままではね」

「貴女はどうするの?いままでよく頑張っていたけど、しんどいでしょう、消えそうですよ」

「御存じで……」


「妹はいつ死んだの?本人が気がついていないのは驚異ですけどね」


「一昨日です、私たちは四年前に親が死に、私は食べて行くために身体を売っていました」

「妹はその事を知りませんが、誰かに囲われているとは理解しています」

「一昨日、私が夜遅く帰って寝ている時に、隣家の火事に巻き込まれて、気がつけば焼け跡に立っていました」


「で、貴女は気がついたけど、妹は気付かない……そんな話を私が信じると思うの?」

「今の話の真実は、妹が火事に巻き込まれて死んだ、そしてその霊魂が迷っている、そのあたりの部分ね」

「あまり嘘をつくと、本当にガルムをけしかけますよ」


「……あの子の母親は霊媒師でした、私とはなぜか付き合ってくれました、死霊の私に良くしてくれたのです」

「あの子が幼いころ、その母親が死に、以来私はあの子を姉として育ててきたのです、もともと私は、パリのドゥミ・モンドでしたから、それしか出来なかったのです」


 姉の名前はマリー・デュプレシ、椿姫のモデルですね。

 たしか結核で、二十三歳で死亡したはず。

 妹にはリュリュ・ゴヤと名乗っているようです、妹はイボンヌ・ゴヤ、十八歳のようです。


 姉は死霊として長く漂っていましたから、妖怪などに出回っていた話も、小耳にはさんでいたのでしょう。

 そして一昨日、イボンヌが煙に巻かれ死んだため、何とか身体を復活させて、マルスで新しい人生を送らせようとしたようです。


「二人とも身体は残っているのですか?」

「イボンヌは黒焦げですが残っています、私はお墓はありますが、残っているか……」

「少しでも骨のかけらが残っていれば、大丈夫でしょうね」

「そのお言葉は……」


「さて、助けてあげるけど、私の女になる覚悟はあるのでしょうね」

「こんな私で良ければ……必ずこの後は貞淑を誓います」


「じゃあイボンヌを呼んでください、生き返るのですから今の事を話しますよ」

「そしてイボンヌにも足を開かせますよ」


 案外にイボンヌはあっさりと受け入れました。

 ただ一つだけ願いを云いました。

 リュリュといつまでも、姉妹として一緒に暮らしたいと。

 しばらくして二人の指には、ティアと同じようなリングが輝いたのです。


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