シュノンソーへ


 巨大な赤い眼の犬が姿を現します。

 リュシエンヌさんの怯えること……


「美子さま!魔犬!魔犬ですよ!」

「そんなに怖がらなくても良いじゃないの、ディアヌさんの愛犬なのよ」


「でも魔犬です!あのバンパイアも食べたとか聞いていますが……」

「そうですけど、可愛いものでしょう、ほら」

 と、ガルムの頭をなでていますが、良く見るとガルムは尻尾を股にはさんで、眼を合わせないようにしています。

 明らかに怯えているようです。

 そんなことなどお構いなしに、ガルムの頭をなでている美子さんでした。


「さて、貴女がアヌークね、今は時間が無いので、とにかくこのリングを付けておきなさい」

「ティア、よく説明してあげなさいね、それからアヌーク、この家には車はあるの?」


 車庫に案内されると、いくつかの車両がありますが、なぜかマローダがあります。

 さすがに武器を取り扱うデュフォー、かなりの特注車のようで、本来十二名が乗れるのです、が最大定員八名となっています。


 四名分の場所に燃料タンクが増設され、使い捨ての、段ボール製簡易トイレなども積み込まれています。

 一セットで五回使えるそうで何と日本製でした。


 内部は二段になっており、大量の荷物も収められ、一応三名が寝る事も出来るようになっています。

 もちろん鍵がかかるようになっており、荷物が落ちることはないようです。


 下段は左右に三席ずつ、対面式で六席あり、カーテンで三つに仕切れるようになっています。

 しかも天井に潜水艦のハッチみたいなものがついています。


「これならシュノンソーまでノンストップね、この家すごいわね、燃料もストックしてあるわ」

「アヌーク、他にも荷物があるなら、詰めるだけつみなさい、かなり余裕があるから」

「それからすぐに食べれるもの、パンとかジュースとか、台所から持ってきてね、毛布もあれば持ってきておいてね」

 

 そして三十分後に、一行はデュフォー邸を後にしたのです。


 マローダが門から出ようとすると、ユニオン・コルスの一団とかち合いましたが、ガルムが美子さんの服のすそをくわえました。

「えっ、片付けてくれるの、頼もしいわね、じゃあお願いね」


 のそっと車外に出て行くガルム、四つの眼を開くと胸元が赤く染まりました。

 そして何かがガルムに吸い込まれていきます。

 跡形もなく、ユニオン・コルスは塵になったようです。


 マローダはパリを脱出、一路トゥールを目指します。

 案外に道は渋滞、かなりの人が南へ向かっているのです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る