パリは泣いている


 トゥールのサン・ピエール・デ・コール駅まで三十分ほど、四時二十分にTGVに乗り、パリのモンパルナス駅に着いたのが四時五十分、パリ郊外のデュフォー邸に着いたのは六時過ぎでした。


 かなりの金貨を握らせて、やっと捕まえたタクシーのお陰で時間がかかったのです。


 パリは治安が、お話にならないほど悪いですね。

 北フランス全域がニューヨークのハーレムのようです。

 やはりかなりの人が、マルスへ移住した影響でしょうね。


「もう私のパリじゃないわ」

 ティアの呟きが、全てを語っています。

 タクシーの運転手はこの後、家族を乗せて南に避難するといっていましたね。

 

 広い邸宅の門は、邸内よりリモートです。

 ブザーを押すと、出るはずのアヌークが出てきません。


 美子さんは何もいわず、鉄格子の頑丈な扉を、無理やり開き中に入りました、三人が中に入ると美子さんが、

「先に行ってるわ」

 そういって、転移してしまいます。

 

 ……やはりね、執事が朝やめたって聞いて、おかしいと思ったのよ。

 ユニオン・コルス――コルシカ島の犯罪組織、マルセイユに根を張っている、現在イタリアのマファアの傘下にあるといわれている――ですか、まぁ二人は大丈夫でしょうね、ディアヌさんが内緒で、ガルムをつけていますから……


 デュフォー邸に強盗が押し入っていたのですが、アヌークはどうやらパニック・ルームに避難して無事のようです。


 ……アヌークって、どうやら機転が利くようね、パニック・ルームにしばらくいてもらいましょうか、その間に殺してくれるわ……

 かなり残酷に始末したようで、美子さん、連日のお仕事でストレスがたまっているようです。


 ティアが玄関にたどり着いたら、中から美子さんが出てきました。

「強盗が押し入っていたようね、片付けておいたわ、アヌークはパニック・ルームに非難していて無事よ、はやく呼んであげなさい、そのインターホンでつながるようよ」


 ティアがインターホーンで、パニックルームに連絡しますとアヌークが出てきました。

「ティア!」と、泣きじゃくりながら飛びついてきます。

 美子さんはといえば、何かに集中しているようです。


「リュシエンヌさん、帰りの切符は明日なの?」

「明日の一番を予約していますが」

「乗車は多分無理よ、フランス国鉄が、この七時に定時運行停止になったそうよ、エールさんから知らせが入ったわ」


「本日中に後始末をして当分停止、後日ヨーロッパの鉄道は統一されるらしいのよ、だから切符は使えないの、車しかないわね、すぐにここを出る必要があるわ」

「でも美子さま、北フランスの治安はひどいものですよ、その中を女ばかりで突破するのは……」

「私がいるのですから大丈夫、それにね、ガルム、そろそろ不可視をやめなさい」


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