デュフォーの娘


 ティアは貰ったリングを、首にかけることはせずに、左の薬指にしています。

 姉のディアヌが、美子様にお伺いを立てると、笑いながら許可してくれたのです。

 いつの間にか左の薬指に、リングが輝いていました。


 不思議なリングで、ヴィーナスの紋章が小さく刻まれていますが、つけているのに、その下の指を触れるのです。


 なんでも見えなくする事も、付ける指を変える事も、祈れば可能とのことですが、ティアはそんな気はサラサラありません。

 堂々と付けているのです。


 ティアはさすがにディアヌさんの妹、小柄ですが文句なしの美少女、その上さらに、綺麗になろうと努力を怠らないのです。

 

「ねぇティア、バカンスはどこに行くの?」

 六月の半ば、フランスはバカンスシーズンに突入したのです。

 

 目が見えるようになって、初めてのバカンスシーズン、遊びに来ていた、アヌーク・デュフォーが訊いてきました。

 同い年で、一応フランスの財閥としてロッシチルドとデュフォーは親しい関係で、時々互いの家に泊まる仲なのです。


 デュフォー財閥は死の商人として有名で、武器が主力の財閥です。


「アイスランドに行こうかと、相談しているの?」

「バカンスに北へ行くのって珍しいわね」

「ディアヌお姉さまがアイスランドに行くので、だったら皆で行こうとなったのよ!」


「ディアヌさん、ナーキッドにお勤めよね」

「インターネットで盛り上がっていたわ、ナーキッドの五人の美女ってね」

「人気投票には、私もディアヌさんに投票したのよ♪」

「皆さん、お綺麗ですからね」


「アイスランドといえば、レイキャネースのナーキッドタウンよね、いいわね、私もブルーラグーンに行ってみたいわ、デュフォーもナーキッドに入らないかしら」


「あら、そんなことをいってはいけないわよ、デュフォーさんのお家は好景気でしょう」

「飛行機が一杯売れているじゃないの」

 姉のディアヌが、こんなことを云いながら入ってきました。


「ディアヌさん……」

 アヌークはディアヌさんの前に出ると、おとなしく猫を被るのです。

 どうやらディアヌさんが大好きのようです。


「あのね、お願いがあるの……」

「なに?」

「ティアと同じ指輪、どこに売っているか、教えて欲しいの?」


「ティアの指輪はオーダーメイドなの、同じものは無いのよ、似たようなものなら、お父様におねだりしたら?」

「……お父様がどこに売っているのかと……」

「そう云ったの?」

 頷くアヌークさんです。


 ディアヌさん、ちょっと渋い顔をしました。

「ティア、少し仕事を思い出したの、お母様がバカンスのお買い物に連れて行ってくれるわ、アヌークさんも誘ってあげてね」

 

 ディアヌさん、自分の部屋に戻って、すぐに電話をかけました。

「ディアヌ・ロッシチルドです、ネイサン・ロッシチルドをお願いできませんか」


「お久しぶりです、早速ですが、アルベール・デュフォーさんの娘さんの、アヌークさんがリングの事をおっしゃっています」

「お父様が、どこに売っているのかと、いっているとか」


 この後ですが、ロッシチルド財閥とデュフォー財閥とは疎遠になりました。

 アヌークも遊びに来ることはなくなり、ティアは少しばかり、寂しい思いをしたのは確かです。


 ネイサン・ロッシチルドというのは、ロッシチルド財閥の総帥であり、ナーキッドの最高幹部の一人。

 そのネイサンが云うには、とにかくデュフォー財閥の相手はこちらでするので、リングのことは適当にごまかしておくようにとのことでした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る