中
数多の観客に囲まれた広いグラウンド。その中央に、私たち一本工業と対戦相手である巻具祖高校の選手がそれぞれ横並びに整列する。じりじりと焦がすような日差しと、観客たちの視線。張り詰めた空気の中、審判が試合開始を告げた。
「一本工業対巻具祖高校……プレイボール!」
「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」
先攻は巻具祖高校。先鋒の選手がマウンドに上がり、足元のうんこケースに手を伸ばす。そこから取り出されたモノの全容を目にして、私は驚愕した。
「コロコロうんこ……それも、複数……」
小さなうんこは握りずらくコントロールが難しいため、競技で使用するには不向きとされている。しかしなんということだろう、あの選手はそれを敢えて選んだのである。
「先鋒、結野!いきます!」
野球のそれと同じオーバースローのフォームで振りかぶり、握り込んだうんこ達を解き放つ。ピッチャーの手を離れたタピオカのようなコロコロうんこは、それぞれが異なる軌跡を描いてキャッチャーミットに吸い込まれる。直後、客席から溢れた歓声がグラウンドを包んだ。
『只今の点数』
アナウンス音声と共に、スタジアムに設置された巨大な電光掲示板に点数が表示される。
『7点、8点、6 点。合計、21点です』
21点。本選とはいえ初戦の先鋒戦にしてはなかなかのスコアだ。客席から再び歓声と拍手の音が響く。
対して私たち一工の先鋒は一年の振鰤くん。彼の表情には緊張の色が浮かんでいるが、うんこを構えるフォームに一切のブレはない。
彼の得物である筋の通った一本グソを、上半身のひねりを活かして槍投げの要領で真っ直ぐに投擲する。キャプテン直伝のピッチングスタイルだ。
先程の選手のような派手さは決してないが、威力も精度も申し分ない美しい投球。入部当初はどこか頼りなかった彼は、今や一人前の選手に成長していた。
『只今の点数』
ごくり、と私は唾を飲んだ。この結果次第でチームの勢いが決まる。なんとか勝って流れをモノにしたいところだが……。
『7点、7点、8点。合計、22点です』
「……やった!」
「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
「よっしゃ!いけるぞ俺達!」
幸先の良いスタートを切った私たちは完全に勢いを付け、その後も格上である巻具祖高校にしっかりと食らい付いていった。
観客ウケと芸術点を重視したテクニカルな相手に対し、こちらは黎明期から続く真っ直ぐで正確なピッチングをぶつけていく。真逆の投球スタイルを用いるチーム同士の戦いは熾烈を極め、ついには戦況が拮抗したまま私の出番である大将戦を迎えることとなった。
巻具祖高校が大将として選出したのは、留学生のベンジャミン・ブラウン選手。海外生まれの持ち味である体格の良さとそこから引き出されるパワーを生かした投球から『ビッグ・ベン』の異名を持つ大物ピッチャーだ。使用するうんこも平均的なものを遥かに上回る超ビッグサイズ、まるでハンドボールのようである。
「いきマース!Fooooooooooo!!」
風を切る音と同時に剛腕から放たれた特大うんこは、まるで大砲の球のように飛んでいく。その強烈すぎる威力は、球を受けたキャッチャーが後ろにのけぞる程であった。
国内の競技シーンでは滅多にお目にかかれないパワフルなピッチングに、客席からは今日一番の大歓声が響き渡った。
『只今の点数』
『9点、9点、10点。合計、28点です』
「これが、ワールドクラスの実力……」
「……」
普段はどんなことがあっても明るく笑い飛ばしてしまう草井先輩も、今回ばかりは不安なのだろうか。苦しげな表情でグラウンドを見つめている。だがここまできたらもうやり切るしかない。一工うんピ部の未来は私と先輩の二人にかかっているのだから。
「いよいよですね、先輩」
「……」
「あの、先輩?」
どこか様子がおかしい。嫌な予感に、背筋を一筋の汗が伝う……そしてその予感は、見事に的中してしまった。
「すまない……俺、腹がっ……」
「えっ!?ちょっと、大丈夫ですか!?先輩!先輩っ!!」
「あっ、ヤバい、も、漏れっ……あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!
凄まじい噴出音と共に、草井先輩のユニフォームのズボンが黄土色に染まっていく。衣服の外からでもわかるその勢いは尋常なものではなく、その場にいる誰もが立ちすくんでしまう。
「あっ、あぁ……うっ…………」
それから数十秒経った後。汚泥の濁流が収まったと同時に、草井先輩は意識を失い膝から崩れ落ちた。
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