POOPEES

アリクイ

 全国高校生うんこピッチング選手権大会。通称、全高ピ。私達一本工業うんこピッチング部は今、その舞台である甲ピ園球場のベンチ裏控え室で最後のミーティングを行っていた。

 ここはうんこピッチングが正式なスポーツ競技として認可されてから今日に至るまで全国の高校生うんこピッチャー達の憧れであり続け、また数々のドラマを生み出してきたまさしく聖地と呼ぶに相応しい場所。私の背筋が自然と伸びてしまうのは、その重みを無意識に感じているからかも知れない。


「よし、みんな聞け」


 監督が口を開くと、室内が一瞬で静まり返る。


「ここから先は厳しい戦いになる、特に今の我々にとってはな。しかし恐れることはない、きっちりと各々の力を発揮するんだ……古村川」

「はいっ」

「不安か?」


 監督の視線が突き刺さる。その表情は私の内心をすっかり見透かしているようだった。私は首を縦に振り、肯定の意志を示す。


「無理もない、うんこピッチング歴史上こんなことは初めてだからな。」


 一呼吸置いて、監督は続ける。


「マネージャーがうんこピッチャーとしてマウンドに立つなんて」



◆◆◆◆◆


 事件が起きたのは今から約一ヶ月ほど前、一工うんピ部の全高ピ出場が決まってから少し経ったある日のことだ。


「先輩っ!たたたた大変ですっっ!!」


 勢い良く部室のドアを開ける音と同時に飛び込んできたのは、一年の振鰤くんだった。普段は物凄くマイペースな彼がこんなにも焦っている、それだけで何かがあったことを察するには十分だったが、事態は想像していたよりもずっと深刻だった。


「キャプテンが、その……事故に遭ったって……」


 赤信号を無視して交差点を通行しようとしたトラックとの接触による、全治半年の複雑骨折。一工うんピ部をまとめるリーダーであり、誰よりもうんこピッチングに心血を注いでいたキャプテンの努力があっけなく無に帰してしまったという事実に、部室にいた誰もが呆然とすることしかできなかった。


 さらに苦難はそれだけでは終わらなかった。野球やサッカーのようなメジャースポーツと比べてまだまだ歴史の浅いうんこピッチング界隈の中でも、一工うんピ部は五年前に結成されたばかりの新参チーム。当然ながらその規模は小さい。特に今年は困ったことに一年生の入部が振鰤くんのみだったため、全員合わせてギリギリ規定の人数に達するレベルだった。

 つまり部の外から人を呼んでくる必要があったのだが、これがどうにも上手くいかない。よその運動部員はそれぞれ自分の部の大会が控えているから助っ人をやる余裕などなく、かといって文化部や帰宅部の生徒から協力を得ることも難しいのが実態であった。

 選手登録の期限になっても代役が見つからず、危うく全ピ出場が無くなる直前に取った選択肢。それこそが、マネージャーである私が代わりに出る、という苦肉の策であった。


◆◆◆◆◆


 運動経験なし、練習期間約一ヶ月。マネージャーとして毎日練習の様子を見ていたこともあって最低限は身に付いたものの、選手として活躍できるレベルには程遠い。ましてやキャプテンの穴を埋めるなんてことができるのだろうか……?


「おいおい、何でそんなシリアスになってんだよ」


 割り込むように声をあげたのは、チームの副キャプテンを努める草井先輩だった。今回の大会、私は動けないキャプテンの代わりに彼のうんこを投げることになっている。


「古村川が気負うことねえって!アイツがいなくたって俺達ならやれるだろ、なぁお前ら?」

「あったりまえだろ!」

「死ぬ気で練習してきもんな、俺達」


「み、みんな……」


 そうだ、今日の為に頑張ってきたのは全員一緒だったんだ。マネージャーとしてずっとその姿を見ていたはずなのに、私ってばキャプテンのことばかり考えてて大切なことをすっかり忘れていたみたいだ。


「私、決めました。もう悩まないって。どんな時でもチームを支えること。それがマネージャーである私の仕事だから!」

「それでこそ一工うんピ部のメンバーだ!お前達!全国に勇姿を見せつけてやれ!」


「「「「「「はい!!!!」」」」」」


 かくして、私たち一本工業うんこピッチング部の戦いが始まった。

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