第2話 85歳になって出逢ってしまう

奥田の独裁政権の中、職員の1人が奥田に話をかけている。

「奥田さん、今日新しい入所者の方が、昼過ぎに来るらしいですよ」まだ、20代ぐらいの若い女性が奥田に話をかけている。

「どんな人なん 手がかからないなら、歓迎なんだけどね、最近は手がかかる人ばっかりじゃん」奥田は溜息混じりに若い女性に告げる。

「たしか、85歳ぐらいの女性みたいですね、家族は娘さんが1人いるらしくて、あとは…食事やトイレは自力でできるみたいですね」

「なら、まだましか、、洗濯もんとか食事手伝ってもらえるわ」奥田は、若い女性職員の話を聞きながら、笑いながら呟く。


どうやら、昼過ぎぐらいに女性の85歳の方が入所になるらしい。僕と同い年になるのか…

辛い思いしなければ、いいのだが。

僕は、この施設の状況を自分で判断できる状態なら絶対に選ばなかっただろう。まさか、僕の老後がこの様な形で最後を迎えるなんて思いもしなかった。


昼過ぎになり、一人の年配の女性と若い女性が施設にやってきた。どうやら、午前中に奥田と女性職員が話しをしていた、新しい入所者だろう。

僕は、哀れに思いながらも、その年配の女性に顔を向ける。

どこかで、見覚えがある顔だった…目鼻立ちがしっかりとしている。髪は肩まであり、白い髪の毛だが、それも、綺麗だと思えるぐらい、美しい女性に、目を奪われる。


「初めまして、介護職の奥田と言います。この施設はとても、良い施設ですよ。個人の尊厳を重要視していまして、自由に生活出来る様に、私たちが日常のサポートをしています。今も入居者様達でレクリエーションの時間でして、皆さんで行事の為の折り紙作りをしています」奥田は笑顔を満遍なく見せ、年配の女性と若いご家族の方に説明をする。いつもの態度など、一遍も見せない表情は、演技役者の様だった。


「この施設なら安心出来そうですね。お母さんにとっても良い所だと思います」娘さんであろう女性は奥田に続けて言い放つ。どうやら、娘という女性も厄介払いをしたい様に見える。本当に心配しているなら、自分たちと一緒に暮らす事を諦めないはずだ。


「初めまして…佐々木 希と言います。 宜しく御願い致します。」礼儀正しく、少し緊張気味に年配の女性は一言挨拶を行う。佐々木…希…僕の頭の中に昔の記憶が蘇る。


中学時代の頃の記憶が僕の脳内を駆け巡る。隣のクラスに希ちゃんと言う、学年のアイドルの子がいた。その子は、とてもお上品な女性だった。学校の男子生徒はもちろんのこと、他校までもが、彼女の事を一目見たくて、校門の前まで押しかける程に彼女は美しかった。

そんな彼女に密かに恋心を抱くのも、当たり前の事だったと思う。

ある帰り道の事、突然の土砂降りで、僕は濡れながら自宅に走っていた。

焦って帰宅していたので、盛大に転んでしまった。身体中は擦り傷だらけ、雨で服は濡れていて、意気消沈している所で、彼女が現れた。


「どうしたの、、大丈夫?」彼女は僕に傘を傾けながら、呼びかける。

僕は、彼女の方に目をやると、そこには、学年一番の美少女が立っている。僕は黙り込んでしまう。どうしよう…どうしよう。何か話さないと、頭の中で何度も会話の切り口をシュミレーションするも、なかなか言葉が出てこない。

やっとの思いで、言葉を発するも、彼女の声でかき消された。

「福島くんだよね、傷の手当てするから、良かったら、私の家にこない?」

彼女は僕に微笑みながら言う。なぜと頭の中を疑問が渦巻く。僕の名前を、あの佐々木 希さんは知っているのだろうか…

「佐々木さん、、すみません」僕は思わず。謝ってしまった。それ以外、恥ずかしくて彼女に言葉が思いつかなかったのである。

彼女は少し、沈黙したが、僕の手を引いて、彼女の自宅まで案内してくれる。

僕はただ、彼女の白くて、柔らかい手に引かれながら、彼女の後を歩く。

この時、僕は頭の中が真っ白だった。














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