アイドル2017
アイドルってなんだろう。
誰かの明日を元気にできれば、それはもう誰かのアイドル。
応募資格は11~35歳までの女性。国籍/プロ・アマ/未婚・既婚など不問。誰かと似てない何かがあること。
これだ、と思った。私はアイドル2017に応募する事に決めた。
私はもう誰かを応援する側に回りたくない。だってこの世に生きている全員がアイドルなんだもん。
その翌日南青山のサロンでヘアアレンジ&メイクアップ講座をして頂いた。「くるりんぱ」というヘアアレンジをスタッフさんに根気強く教えて頂いたが、工程が複雑すぎてもうそれ以来やっていない。オシャレへの道がマジで険しすぎる。
メイクアップ講座では私はお恥ずかしながら27年間ファンデーションという物を塗った事がなかった。初めてファンデーションにはリキッドタイプという物があるという事を知った。
スタッフさんが丁寧に顔の絵が書かれているシートに「メイベリン」のリキッドタイプのファンデが良いとか、パーツごとにお勧めの化粧品を書いてくれた。
お勧めの化粧品はちょっとお雛様のようだったので、私にばっちり化粧が似合わない事などが分かった。
その後南青山の写真スタジオで写真撮影の講座を受けて、プロの写真家の方に写真を撮って頂き、その写真を応募書類に使う事にした。でも、その写真よりも写真家の先生の
「失敗は解釈次第」
「チャレンジしただけで100点、成功したらおまけ5点位、失敗してもその点数が揺らぐ事はない」という言葉に痺れた。凄く、「愛」の人だった。
そう、毎年4000人程応募するから2次選考を通過するのが100名。アイドル2017に選ばれるのは8名、ってとこだ。針に糸を通すようなものだ。
通らないのは自分でもわかっている。
正直、選考が通る事が目的ではないのだ。チャレンジする事に目的がある。
あの写真家の先生の言う通りだ。チャレンジする事に意義がある。逆にチャレンジしない人は指をくわえて見ているしかできないんだ。アイドルを批評して自分の「補填」にしかする事が出来ない。
私は、ただ待っているだけの女になりたくなかった。
自分で、このぐるぐる考えてしまう現状を脱却する為の糸口にしたかったのだ。
ちなみにその後上野まで伊藤若冲の展覧会に行きたくって上野公園を歩きまくったが、あまりの行列に愕然として上野駅に入っているインドカレー屋に入って食べて帰った。それが日曜。月曜からいつも惨憺たる日常が始まる。
10日後、写真家の方が写真を送ってくださり、帰ってからは書類を作成した。
自己アピールを書く欄があって、
「私はただの会社の事務をやっている者で…」の後がなかなか思い浮かばなかった。
「でもそんな自分の現状を変えたくて応募しました。落ちる事は分かっています。でも私はいつまでたっても応援する側に回りたくない。私は生きる人、全員がアイドルだと思っています。」
「会社員である限り、」
「会社員は会社の歯車です。歯車になれない人はどんなに過去に実績があっても排斥されます。どこに行ったって、私の不満は消える事はないでしょう。」
「でもそれを諦めるのしかないな、と思っています。だって世界はこんなに多様化していて個人が独立して生きられるサービスは多分にあります。でも私は会社員として生きる道を選びました。」
「でも世界はもっと広がっていて、仕事の為に人生があるのではなく、人生を豊かにする為に仕事があるのです。」
「仕事だけじゃない、でも私にはそれが何か明確には分かりません。でも何かを掴みたい、と常に思っています。どんなアイドルになりたいか明確ではない事は分かっています。」
「私は他人の事は分かりませんし、分かりたくもありません。」
「しかし自分と同じように、この空虚な生活を変えたいと思っている人がいると思うのです。差し出がましいですが、その方の道標になりたい、と勝手に思っています。」
「私を見つけてください。太宰治の「待つ」のように『毎日、毎日、駅へお迎えに行っては、むなしく家へ帰って来る』女になりたくありません。」
「その女は『その小さい駅の名は、わざとお教え申しません。お教えせずとも、あなたは、いつか私を見掛ける。』と最後に言います。彼女は恐らく誰にも見つけて貰いたくないのでしょう。でも私には見つけて貰いたいです。」
「中田優美と申します。よろしくお願いいたします。」
「書類送信」のボタンを押した。
ふう、とため息をついた。夜中の3時だった。
私の、誰にも言えない自分との葛藤だった。
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