最後の手紙

僕は一生一人で生きていくと思っていました。南に会うまでは。


誰かに自分の事を理解はされたいと思っていながらも、どうせ誰も自分の事を理解出来ないと思っていました。だから「この人になら何でも話せる」そんな人がいなかったのです。


僕は君に話した事がないけど一時期とあるアイドルのヲタクだった時期があったんだ。

彼女からtwitterのリプライが来た時は夢みたいで、でも逆にリプライが来ない時は死にそうだった。

笑い話で済んで良かったけど、さびしくてさびしくて彼女を殺そうとしていた。

でも結局高知への異動の話を頂いて、今に至って、本当に良かった。


本当の意味で心が通うなんて事は、自分には一生無縁だと思っていた。

でも別に、死ぬまでそれで良いと思っていました。


でもそれは嘘だ。


アイドルを応援している時はその子が自分にとって一番の存在だった。

でも僕は自分を本当は自分が応援されてほしかった。親にも友達にも自分を励ます人なんていなかった。皆自分から離れていった。

でも僕は誰よりも大切にされたいし、あなたの事が一番だと言われたかった。


でも、求めだすとあまりに辛いし周りから気持ち悪がられるし、とりあえず心の奥へ自分の気持ちを押し込んで、淡々と、ただ淡々と生活していった。


死にたいと思った事はたくさんあった。

逆に死にたいと思った事がない人なんていないと思った。


でも死ぬ勇気がなかった。

死んだ方がマシだったかもね。


でも今だとわかるよ。自分を曝け出さない限り、相手も自分の中に入ろうとしない。でも僕を見つけてくれたのは君だった。


君は「私の人生を変えてくれたのはあなた」って言ってくれたけど僕もそうだ。


君が僕の事を大切だと言ってくれた。

君が僕の事を特別だと言ってくれた。

君と詩織さえいれば僕はもう、何も要らない。

その他の全ての不幸も、全部なんて事はない。


君と詩織のなら、何だってやってやる。


もう誰に何を言われても何とも思わない。僕の少しの我慢で南と詩織が幸せになるならなんて事はない。最大の幸福を与えよう。行った事のない所に連れて行こう。今まで感じた事のない感動を与えよう。生きてて良かった、と絶対にそう思わせよう。君が産まれてきてくれて今目の前に今いる事が本当に嬉しいと、何度も何度も伝えよう。自分は愛されているんだと、そんな事は当たり前だと思えるようになるくらいに愛を与えよう。


幸せだ。こんな幸せはあるのか。


でも君はいなくなった。

とても早く、僕の目の前からいなくなった。

ずっと一緒にいるって約束したのに。


痛かっただろう。あっという間だったらしいから痛覚を感じないまま、と思うしかない。

僕の事は恨んでいるだろう。

僕と会わなきゃ良かったと思っているだろう。

僕だって自分を恨んだ。南と出会わなければ、人生終わっていたのに、あのまま藁にもすがらなければ良かったのに。


でも、これだけは言いたい。


僕は君といて本当に幸せだった。

君もそうだったと信じるしか出来ない。

そうしないと僕は前に進めない。


君と会った事を無かった事になんてしたくない。知らなければ良かったなんて思わない。

僕は愚かだから君からいくら「あなたといて幸せ」と言われても不安だった。

でも自分の気持ち、これだけは絶対だ。


君の事が大好きだ。そして君といて僕はとても幸せだった。


こんな僕でも、詩織の親だ。親なりに必ず彼女を幸せにする。

最近詩織は言葉を沢山話すようになった。

たまに「ママ」って言うんだ。詩織も僕の事を恨むんだろうか。

君の元に行きたくてしょうがない。


でも僕は詩織を必ず幸せにする。そして僕も幸せになる。幸せになる資格がない、なんて言ったら君が怒るかもしれないから。

完全な幸せなんてものは、決して存在しないと思っている。

それが本当にあるって事は、身を持って教えて貰った。


だから自分と詩織の幸せ、いや母も、南のお父さん、お母さん。少ないけど友達や会社の同僚や上司、自分を支えてくれる人のために歩いていく。


辛いけれど、生きる。


今までありがとう。大好きだよ、本当に大好きだ。早く君に会いたい。

今はゆっくり休んでください。

だから今は、さようなら。

また、会えるよね。3人でまた一緒にごはんを食べよう。仲良く話をしよう。

詩織と話したくてしょうがないだろう、南。


ありがとう。

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