Bears
4月から高知での仕事が始まり、狭いオフィスの中で女性の事務員さんと一緒に郵送や経費精算をする事になった。
特に誰とも会話もなく、淡々と作業をする日が続く。
特に誰とも折衝がなければ案外いけるものだ。
前は出向先でクライアントから無茶な事をよく言われていたものだ。
また出向先を出たらすぐに会社に電話をして30分位の無意味な報告タイムが始まる。
うだるような暑さから逃げたくて電車が弱冷房車だったのでまたイライラして。
就職して8年経ったか。
大学の時は男しかいない電子工学科で、僕の4年間はプログラムの授業以外は主にアニメと漫画、ラノベとニコ動くらいしかなかった。イラスト研究会に一瞬入ったが2週間でやめてしまった。
空虚感が常に横たわる4年間だった。
高校卒業したらさっさと就職すれば良かったな。いやそれは地獄か。
地獄か。地獄だったな。
プログラミングを学んだのも食っていけるかなってだけで好きでもなかった。
「人間は働くのが一生の大半」というのを感じた大学3年の時絶望した。
人間はそんな事の為に生きてるんじゃない。
院に逃避しようとしたけど親が許してくれそうもないし、僕の学部から行く人もいないし。
まあ、いいや
今は定時で終わるから今日も美味しいごはん屋を見つけに行こう。
僕の会社からは商店街が近い。18時頃の商店街の雰囲気が僕は好きだ。
会社からはたまに自転車で通っている。本当に四方を山に囲まれているので坂を上るのは最悪だが、下るのはとても気持ちが良い。くまみこのエンディングテーマを聞きながら坂を下るとハッピーな気持ちで通う事が出来る。
東京を離れた事がなかった。
海外に行った事もない。
くまみこと違って都会にはもううんざりで、田舎の方が良いと思う。
今日は「きときと」の「清水サバ」の刺身にしようと思ってる。
何か高知グルメのブログでも作ろうかな。
定時で帰れるからご飯食べてネットして寝るしかしないから。
前はトイレ行って適宜あいちのtwitter眺めてたけど。
クソだな。
特にアイドルのファンは僕みたいに人生がうまくいっていない奴ばっかりで、ちょっと変な発言した奴には揚げ足取りしかしなくて、足引っ張り合って。
自分の好きなアイドル以外の自分が許容できない人に対しての攻撃が酷い。地獄だった。
twitterがなくなれば全世界にある5割の下らない内紛が消えると思うんだが、誰だよtwitter発明した奴。
でもそこにしか捌け口がなくて。やめたいけどやめれない、依存状態だった。
そんな自分が嫌いだった。
良かった。田舎に引っ越して、あのままだったらあの子を傷つけるままだった。
もうすぐ31歳か。
親と幼少期から仲が悪いからもう10年位まともに話していないし、数1000フォロワーいたtwitterはやめたし、facebookに(リアル)友達が23人しかいない。
23人の中にも女の子は一人はいないし、彼女いない歴=年齢だし、流石に世間的にやばいかなというのは分かっている。
でもマストじゃないから、そんなに頑張れないのも事実だ。
2杯目のビールを頼み、到着するまで久々に開いたfacebookにマッチングサイト「Bears」の広告が表示された。facebookのプロフィールから勝手にプロフィールが作られるらしいので申し込んだ。
・・・写真。
顔晒すの嫌だ。
犬の写真とかでもいいかな。飼ってないけど。適当にダックスの写真にしよう。
ニックネーム たかひろ
年齢 30歳
血液型 B型
兄弟姉妹 長男
職種 元エンジニア?事務職だと怪しまれる?まあいいやエンジニアで。
身長 170cm
恋愛・結婚について、知らんがな。
結婚歴、なし
独身(未婚)、スルー。
子どもの有無、スルー。
結婚に対する意思、スルー。
子どもが欲しいか、スルー。
家事・育児、ああ、これは協働ですべき・・・
「お待たせしました!」
ああ、良かった。男の店員で。見られてもセーフ。いやどうでもいいや。
・・・ああ、うまい。
出会うまでの希望、マッチング後に会いたい、気が合えば会いたい、きちんとメッセージを交換してから会いたい、スルー。やる気ないな。
初回デート費用、うわあ。何かこの間「ちゃんと性的対象で見たいから奢ってほしい」っていうクソみたいな投稿があったけど女性は皆そう思ってるのか?残酷だなー。でも30代で男女別平均年収が100万ぐらい違うっていうから奢っても良いかもしんない。貧乏元エンジニアだけど。
性格・タイプ、うわ最大5つまで選択可って。これってさあ。性格って時によって全部当てはまると思うんだけど。
優しい、優しくないか。アイドルdisってたからクソ野郎だよ。僕は。さびしがり、気分屋。うわあどこのメンヘラだよ。スルー。
社交性。今気づいたけど自動的にfacebookの友達数が晒される。いや数じゃないでしょ。でもいるよね、とりあえず数増やす奴。1000人以上だと結構怖いな。ソーシャルビジネス?とか思うわ。
あー鯖うまい。前嫌いだったけど。生姜と合うね!
少人数が好き。
休日、土日。
タバコ、吸わない。吸う女の子嫌だなー。
好きなこと・趣味 ごはん(高知),漫画,アニメ。
何かメッセージ入れられる。はじめまして!これしか思いつかない。
・・・コミュニティ?好きな物を表明できるのか。mixiを思い出すな。mixiって今どうしてるんだろ。ああ、これボタン押して表明するだけで掲示板とかないのか。これちょっと面白いな。「あ、豚肉のしょうが焼きとライスと豚汁ください。」
しばらくすると50を超えるコミュニティに参加していた。
「H×H連載再開待ってる人!!」「穏やかにのんびり過ごしたい」「じゃがりこだいすき♡」
これならいくらでも好きを表明できる。
お、「高知在住」から女の子をいいね!が送られてきた。
まあ、礼儀としていいねを送ってみよう。
27歳か。3歳違う。一番センシティブな年齢だよな。
コミュニティ見たら結構オタ系だな。「銀魂終わらないで〜>_<」「とか。あ、すごいこの人「くまみこ」のコミュニティ創出してる!一人しかいないから多分そうだ。僕も入ろう。
ニックネーム みなみ
年齢 27歳 高知在住
血液型 B型
兄弟姉妹 長女
Facebook友達数 150人以上、あっ結構リア充。
学歴 大卒
職種 事務職 かぶった!
身長 157cm
結婚歴 独身(未婚)
家事・育児 積極的に参加したい
社交性 少人数が好き
一人暮らし
休日 土日
お酒 ときどき飲む
タバコ 吸わない
好きなこと・趣味 料理、漫画、アート
友達の人数以外はかぶってるな。写真結構可愛いな。オタサーの姫だったのかな。
あ、メッセ来た。
「こんばんは。」
はい「こんばんは。」
「みなみと申します。くまみこお好きなんですか?」
そこから?!「はい、今高知のど田舎に住んでいて、共感するんです。」
「お待たせしました!豚肉のしょうが焼きとライスと豚汁になります。」
「ありがとうございます」
「あ、私も結構田舎に住んでいてー(笑)。じゃあ、結構近いかも!皆東京に住んでいて困ってたんです」
ぐいぐい来るわー。適齢期のプレッシャー来るわー。
でも僕は大人だから。
「他にはどんなアニメが好きなんですか?」
「えーと、今ヒーローアカデミアがアニメ始まったから観てます」
「え?!私もヒロアカ好きでー」
延々とアニメと漫画の話した。家に帰った後も。画面上で女の子とアニメと漫画の話をしたのはコスプレイヤーの女の子ぶりだ。3ターンで終わったけど。生涯で最長かも。
女性の声優は上坂すみれが好きだと伝え、彼女は男性の声優は下野紘が好きだそう。あと3歳下だそうだ。
そこから朝8時くらいに彼女からの「おはようございます☆」に始まり、18時以降、延々アニメや漫画の話をした。
高知という特殊性が優位に立った事に驚きつつも、彼女のリプライが生活の全てになってしまった。
...以前と変わらないじゃないか!
やだなー、僕の心底ではオスがいるのかと思うとぞっとするわ。生涯いないからそうなのか。
やめた方が良いのかな。
前みたいにリプがなくなったら攻撃するみたいなそんなクソみたいな人生を送りたくない。
でも彼女は、純粋に、アニメと漫画の話しばっかりするから。
彼女は表面的な友達が多くて語り合える友達が欲しかっただけかもしれない。
「あんまりアニメや漫画の話するとリア友が引くから出来ないんです(><)、あんまりヲタの友達がいなくて」
へえ、そうなのか。アニメや漫画ってかなりの大多数の趣味だと思ってるんだけどまだまだ女性には浸透していないのかな。ソ連、装甲車好きとかよりはかなりのマジョリティーだと思うけど。
twitterも怖くて観てるだけで、アカウントはないみたい。いいぞ、いいぞ。そのままでいてくれ。「僕みたいに裏アカを4つ掛け持ちしてリツイート地獄に陥らないようにしてね」って言ったら笑ってくれた。若干、勇気必要だったけど僕の黒歴史を笑ってくれた。
何か救われた気がした。
彼女は僕の過去の話は聞かない。僕も聞かない。ただただ現在放映中のアニメや連載中の漫画の話のみ。でも仕事はつまんないらしい。
「上司が少しも自分を褒めなくて、指摘だけしてクソ性格悪いんです。いつも無表情で(-_-)」ぐらいしか話してない。
それで良い。僕も仕事の話なんかしたくない。過去の話もしたくない。
「僕は仕事だけが人生だと言っている奴、クソだと思う。仕事より大事な事が世の中には沢山ある」
「私もそう思います!」
「でもその大事な事が何かよくわかんないけど」
「笑 私も!アニメと漫画かな!」
「それはそうだね」
「過去の話嫌いなんだ」
「私も。あんまり良い思いでがないから・・・」
「僕は学校のカースト外で」
「私も!底辺でした」
「へえ、そんな感じじゃないけど」
「いやいや!もう最悪で」
「過去の漫画やアニメの話は良いけどね」
「そうですね!私最近スラダン見返して」
「ああ、スラダンは万国共通だよね。皆好きって言う」
「うん、嫌いって言う人見た事がない!」
居心地が良かった。
死ぬほど考えてリプらされやすい言葉をリツイートして、リプライ来なかった時にあの絶望感。
最初は考えて言葉を編み出したていたけど時間がかからなくなった。
いつも使用している言葉でリプライが出来る。幸せだ。人とまともに会話をしたなんて久しぶりだ。ああ、高知に本当に来て良かった。飯はうまいし、仕事は簡単だし、生活費は安いし、気の合うヲタの子と普通に会話が出来るなんて最高だ。
こんな幸せがあるのか。
Bearsに入って、20日が経った。
他の女の子のリプを見るが他の子は大体ディズニーが好きで、冬はスノボをするような女ばっかりだ。あの子以外は。見つけちゃった感じがするな。
18時に仕事が終わってすぐ携帯を見る。
「お仕事おつです!」
「お疲れさまー」
「今日、これから時間ありますか?」
「うん、特になにもないよ」
「これからご飯一緒に食べません?」
これが彼女と初めて会った8月の暑い日だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます