4月から激安月4万で2DKのアパートに住む事になった。

しかも全額住宅補助出るからタダで住める。最高!

ガチで四方を山に囲まれている。トトロ、リアルくまみこの世界。


人事「何もありませんよ?」

自分「山と湖があるじゃないですか(⌒-⌒)b」

変人扱いを受け、今に至る。


何とか段ボールから一通り荷物を出したら既に夜の19時で7時間くらいかかってしまった。

高知といえばカツオだよなあ、と思ったらすぐ家の近所にカツオのタタキの藁焼き体験をやっている店を見つけた。


それほど高知ではカツオが日常なのか。勿論店に入る。

店頭で焼くカツオの量と、一緒に食べる魚を選択して先にお会計を済ませる。飲み物は普段飲まないビールにした。

カツオを焼くのは店から少し離れた駐車場。

カツオの身に粗塩をふりかける。塩をふったカツオを網に乗せて焼いていく。


藁で起こした火は一瞬で勢いを増す。


カツオのたたきは表面だけをしっかりと焼くため、火を追いかけながら、強い場所に当ててしっかりと焼き色が付くまで焼く。

パチパチと音がして煙はどこまでも遠くに行きそうだった。

ぼんやりと煙を眺めていたらもう食べても良いと言われた。


皿鉢に切ったカツオを乗せ、玉ねぎ&薬味のねぎにんにくをドバっと載せる。


美味しい。普通に美味しい。カツオのたたきなんて居酒屋でしか食べた事がなかった。パサパサの乾いたやつ。


まさに高知だよなあ、僕来た事なかったけど。高知って感じがする、うん。

冷えた中ジョッキのぷくぷくと上がる泡を眺める。お店で中ジョッキなんて頼んだの久々だなあと。


節約して、あの子のイベントの為に牛丼やインスタントラーメンしか食べてなかった。

お店に入って美味しい食べ物を食べるのも鬱陶しくて出来なかった。

誰でもない、誰かからの視線に耐え切れなかった。


僕なんかが人生を楽しんで良いのかとずっと不安だった。

誰かの為になった人生の方がずっとマシなんじゃないかって。


そんな事ない。僕は「あの子が一番」って言い続けてたけど、自分が一番言われたかったんだ。


カツオとビールはそんなに合わない。でも良い。この焦げが良い、くんと臭う、今調理したって感じがする。

「生、一つ」

「はい、生一つ!」

店員さんの可愛い声が響く。


普段はお酒を飲まない方だけど(飲む時はチューハイだけど)この時はビールが飲みたかった。

何か頑張った後に一番しっくり来るのがビールだ。


忘れていた。しばらく何かを忘れていた。何かこのビールの泡みたいに霧の中に包まれていたようだった。


今の店員さん、可愛かったな。大学生かな。


何か中学時代の同じ吹奏楽部にいたホルンの子に似ていた。黒のゴムで一つにしばっていて、黒のエプロンで動きやすいブルーのスリッポンを履いて、混雑した店内を笑顔で捌いてる。

アイドルは身近にいる、高知にもいるんだと思い、彼女にオーダーを取って貰いたかったから、

もう2杯は頼もうと思ったけどやはりあまりお酒は飲めなかった。変わりに冷奴と鹿肉の刺身を頼んだ。

「ご注文、以上でよろしいですか?」と「またお越し下さい!」の時が一番可愛かった。忙しくても唇は乾いてなくピンクのままだった。

彼氏いるのかな。

何でこんな可愛いのに屈強な環境で彼女は働いているんだろう。彼氏いたらこんな所で働かないか。


夜10時くらいに帰るとアパートの玄関にツバメの巣があった。ヒナが可愛い。近くにカラスが来たら、退治してやる。

ドアを開けると乱雑に段ボールが置かれていて、「ああ、カツオ食う前に紐で縛れば良かった」と少し後悔した。でも明日ゴミ捨ては段ボールの日だから朝やれば良いと思った。


twitterはもう停止して見ていない。今は周りにある機微を感じて暮らしたい。


もう戻らない。


でもテレビもないので寂しいからパソコンを開くと、

おもむろに「高知 カツオ」、「高知 グルメ」と検索した。


カツオのたたき寿司、のれそれ軍艦、うるめ、へえ、こんなの回転寿司で売っているんだ。

鯖って生で食べられるんだ!「きときと」の「清水サバ」の刺身に感動・・・でも僕鯖嫌いだしな。

ジビエって今日食べたら普通に食えたな、へえ、ジビエセットなんてあるんだ。


始業まで時間はある。

明日は何を食べて生きていこうかな。


そのまま床で寝た。電気は消したけどパソコンの電源の光が煌々としていた。

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