自信とは何か

自信とは何か。


 あの一件以降、絵理は様々な本を読み始めた。女性のDVの本、様々な心理学の本、自信と劣等感の本。加藤諦三の「苦しくても意味のある人生」を読むと、「どうしたら自信が生まれるか」という章があった。


「どうしたら自信が生まれるか。平凡な毎日をきちんと続けることから自信は生まれる。 

 私たちは誰もが自信を持っていいはずなのである。毎日会社に行く、学校に通う、顔を洗うなどのことを長いこと続けているのだから。地道に毎日をきちんと生きている私たちは本当はすでに自信を持っていると思ってよい。それなのに自信を持てないと思いこんでいるのは、私たちがいつの間にか形にとらわれすぎてしまったことである。」


 確かに。これまで絵理は『なりたい自分』と現実のはざまでずっと苦しんでいたが、その『なりたい自分』は自己実現ではなく、周りからの評価から構成されていてあらゆる名誉も自分の自己実現ではなかった、と気付いた。

今絵理は毎日会社に遅刻せず行けているだけで自分は本当に偉いと思っている。

 そうなのか、毎日のこの地道な生活の積み重なりが大事なのか。

「人は自分を尊敬できないから虚栄心が強くなる。何もしないのは、生きる目的を見つけられないからである。自分が信じられる人を探すことである。とにかく何か信じられるものを探し、それを手掛かりに虚栄心を捨てる」

「どうしても虚栄心を消せない人は、まず『なんで自分はそんなに認められてもらいたいのか』を考えることである。ありのままの自分でいいというのは自分の運命を受け入れることである。自分は自分の運命でいいということである。もう動かせない過去を受け入れることである。」


「幸せになるためには自分を律することと書いたが、あなたはどんな形で自分を律していますか。挨拶だけはする。日記を書く。何でもいい。自分にもできそうなものを選んで続けることである。強い意志は続ける中から育ってくる。

 お金持ちになるよりも、現実ときちんと向き合って生きていることで『自分を信じる』ことが出来る。それが本当の自信になる。目の前にある仕事をするのが『本当の自分』の姿である。」

 そうか。自分は賞賛を得る事しか興味がなかった。だからどんなに頑張っても頑張っても賞賛を得ないので生きていても意味がないと思っていた。でも普段の生活をすれば良いんだな、と思った。


 今日は朝10時にトイレのドアノブの修繕に来るので玄関前を掃除して洗濯機を回して時間通り来たので迎えて、そういえばこの家にはお客様用のスリッパがないと気づき、2か所病院に13時までに行き、「漢方で症状が良くなった」と先生から言われ嬉しくなり、帰りにカラオケで歌いながらキャベツとポテトフライを食べて、帰りに100均でスリッパは男女ペアが必要か悩んだが、結局青のスリッパのみ買い、ついでにコンシーラーと夏用のソックスを購入し帰宅した。

 彼はずっと横たわりながらソシャゲをしていたが、17時に「お腹が空いた」と言ってきたのでお土産の残りで鍋を作り、鍋が温まるまで風呂掃除をした。


「おいしい」と言ってくれたので、そうだ、休みは余裕があるからごはんが作れるんだと改めて認識した。平日はなかなか難しい、というごく普通のOLの悩みなんだな、と思った。

その後銭湯に行って、帰りにスーパーに寄ってお粥と水を購入した。


「こんなはずじゃなかったんだけどなあ」という事ばかりだ。

人生は不公平である。とことん不公平である。それだけは先ず受け入れなくてはならない。

「価値を達成しようとして結局心身共にボロボロになるよりも、自分の力にふさわしいところに落ち着くのが長い目で見れば幸せなのである。」


それでも、

 「何気ない日々は何気ないままゆっくり僕らを殺す

 そしてまた変わらず何も起こらず一人お辞儀で帰る

 それでも始まる逆襲の予感」


でも「実際の自分より素晴らしい人間などいない」まあ、そうだよなあ。


 これは加藤諦三の「自信と劣等感の心理学」からだ。

「しかし小さい頃には、それほど些細なことでもそれだけ執拗に責められたのである。大人になって注意をしてくれる人は、その人を責めているのではない。注意した人は「直そうよ」と前向きなのである。

 そういう人は誰よりも働き、誰よりも努力しながらも、いつも「びくびく」と怯えている。

 自分に自信のある人とは自己実現の喜びを知っている人のことである。自分の能力をみんなに認めて貰いたいのは、自己実現の喜びを体験していないからである。

 美しく生きるのは、自分を飾ることではない。生活をきちんとすることである。」


私が本当に実現したい事は何だろう。


 彼が「美味しい」と言ってくれたように、彼の喜びを共に実現したい。別に自分で家族を持ちたいと思わない。


「自分の価値を証明しようとする人は、自分も相手も傷つける結果になることが多い。他人の評価で動かないで、自分の求めているものを得ようとする。その態度を貫く。人は自分の意志にもとづいてしたことで幸せになれる。

 戦うから人が怖くなくなる。戦うから人が好きになる。

 自分の価値をたえず証明しようとしている人は、相手を思いやるゆとりがない。人からの賞賛を目的としない生き方である。そして自分らしい生き方をすること。自分らしい生き方をしていればエネルギーはほとんど無尽蔵である。(中略)あなたの劣等感の原因となった言葉は、その人が自分を守るために言った言葉である。その人が自分の弱点を隠す為に言った言葉である。あなたについて行った言葉ではない。」


 絵理はamazonで10冊加藤諦三の本を買って一気に読んだ。言葉がぐんぐんと身体に染み込んでくる。加藤諦三も毒親からいかに解脱していくか考えてハーバードまで行って学者になった人間だ。今も沢山の著作を書いて、沢山の人々の悩みに答えている。それが彼の「自己実現」だ。絵理が20歳の時からバイブルである「だれとも打ち解けられない人」ではこう書いてある。


「うつ病になるような執着性格者は、自分一人で学校でも家庭でも職場でも頑張った。だれも守ってくれなかった。要するに心のゆとりがない。だから息が詰まる。張りっぱなしの弦のように、いつかは切れてしまうだとう。心の中の見えない孤独な頑張りに、周囲の人も本人自身も気が付いていない。真面目な人は憎しみを心の底に宿しているのである。普通の人よりも傷つきながら、普通の人よりもその怒りを表現できない。傷ついた怒りの感情は、なかなか消えることはない。」


 絵理はこの本は1000回は読んだ。でも今に至るまで全く実践できていない、自分は未だに「執着性格者」である厳然たる事実に愕然とする。しかし、この本を読むといつも希望が湧き、涙が出てくるのだ。

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