七人殺しの役童

彼の境遇を思えば、同情に値する点はいくつもあったでしょう。ですが私は、役童強馬えきどうきょうまの選択を支持することはありません。


彼は、杜撰な医療事故で母親を死に至らしめた上にその死を貶めた医師にまず<復讐>したのです。


支援者を集めた会合の席に乱入し、得意の柔道で医師の頭を固い床に容赦なく叩きつけ、脳挫傷と頚椎骨折でほぼ即死させたのを皮切りに、その場にいた医師の支援者達にも次々と襲い掛かって、結果、七人を惨殺するに至りました。


その際、支援者の一人が連れていた八歳の児童も、彼が柔道の技で激しく叩きつけた被害者の体が当たって頭を強く打ち、やはり脳挫傷で亡くなっています。


これだけ見ればその児童の死は不幸な事故のようにも思えますが、この時の被害者はその児童の父親であり、周囲からは父親の体をその児童に叩きつけて殺害したとしか見えなかったそうです。


また、この時の襲撃のあまりのすさまじさに、一部の目撃者は役童強馬えきどうきょうまが刃物を持って被害者を次々に襲ったと誤認した人も何人もいたとのこと。


人間をただ投げつけただけで死に至らしめるというのがその目撃者の中では整合性を持たなかったことにより、認識を歪めてしまったようですね。


この後、通報により駆け付けた警官二十名とも格闘。柔道の有段者が何人もいた警官隊ですらすぐに制圧することができず、結果、十三人の重軽傷者を出した後にようやく取り押さえることができたとのことでした。


中には拳銃を抜いた警官もいたそうですが、役童強馬えきどうきょうまが常に警官の誰かと組み合っていたので結局は発砲することさえできなかったとも。


こうして役童強馬えきどうきょうまは逮捕され、さらには取調室でも暴れようとして何人もの警官に警棒で激しく打ち据えられたりもしたそうです。


七人もの人を死に至らしめたことで、それまで抑えていた凶暴性に歯止めがかからなくなってしまったものと思われます。


そして私は、<復讐>の恐ろしさをまざまざと見せ付けられた気がしました。


なにしろ役童強馬えきどうきょうまの母親を杜撰な医療事故で死に至らしめたことにより最初の犠牲者となった医師は、地元では大変な人格者の名士として有名な方だったそうですから。


しかも、その医師が発言したという、


『あんなゴミに我々が支払った年金保険料から年金が支払われることを考えれば、我ながらよくやったと思うよ』


というものも、それが本当にあったことなのかどうか、確かな裏付けは取れなかったそうです。


となれば、果たして誰が役童強馬えきどうきょうまにそのようなことを告げたのか……


それを告げた人物は特定されていますが、本人は、


「確かにそう言っているのを聞いた。だから役童に伝えたんだ」


と証言したそうです。


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