ラブレター事件 エピローグ
学校で顔を見かけても完全に無視して、視線すら合わせようともしない。
あれほどしつこく『責任を取れ』と言っていたにも拘らず、どうしろとも結論が出ないまま彼女の方がイチコを避けるようになってしまったのです。
「ピカ、ひょっとして何かした?」
イチコが私に尋ねます。ですが、
「いえ、私にも分かりません」
と応えるしかできませんでした。実際に私は何もしていないのです。
そこに、カナが話し掛けてきます。
「たぶん、イチコ相手だと調子が狂わされるからって気がするかな。
見てて思ったんだけどさ、あの子はただ自分のペースに巻き込みたかったんだよ。それでイチコを振り回したかったんじゃないかな。でもイチコはぜんぜんあの子の思い通りにはならなかった。で結局、イヤになってやめた。
そんなとこかなって気がする」
「そうかもしれませんね」
カナの言うことももっともだと思いました。
しかしそれで納得がいかなかったのはフミです。
「何それ? ラブレターを届けたかった相手のこともどうでもよくなったってこと? それこそ意味分かんない。そんなことで他人をあそこまで罵れるもんなの!?」
とは言ったものの、実はフミにも心当たりがない訳でもなかったのです。館雀さんの姿に、自身の母親がダブってしまったのだと言います。
フミの母親も、相手のことなどお構いなしで一方的に罵って蔑ろにするタイプの人間なのだそうです。本当にどうでもいいような些細なことで粘着質に悪態を並べ、貶めようとする。
さらに母親の親族を思い出してみると、多くが似たようなタイプだったとも。もちろん全員が全員そうとは限らないですが、フミには甘い母方の祖父ですら、祖母に対しては容赦のない辛辣な言葉を投げかける姿を何度も見たとのこと。
そしてフミは気付いてしまったのです。自分も館雀さんをしつこく罵ってしまっていたことを。母親や親族のようになるのが嫌で抑えてきたのに、それを忘れてしまっていたことを。
「私も、同じか……」
そう呟いてうなだれるフミに、イチコが静かに語り掛けます。
「自分が嫌だと感じてる相手と同じことをしてるのに気付けたんならもう同じじゃないと思うよ」
「イチコ……」
世の中で起こる問題の多くが、すっきり綺麗に解決する訳ではありません。むしろその殆どが何となく曖昧にうやむやなままに埋もれていくものでしょう。館雀さんの件もそういう問題の一つだったということです。
結局、フミの中にも晴れない靄のようなものが残ったものの、フィクションではないのですから何でもかんでもきれいに解決といかないのがむしろ当たり前なのです。この世はそんなに都合よくできてはいないのですから。
もっとも、イチコにとっては最初から大した事件でもなかったようですが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます