ラブレター事件 その18
翌日も
私は正直、彼女に対してあまり思考するのも億劫になってきていました。カナに至っては完全に飽きてきています。
ただ、フミはやはり怒っていましたが。
そんな中でもイチコは変わりません。
「私は館雀さんとこうしてお話しできて楽しいよ」
そう笑顔で言うのです。
本来の意味とは若干ずれるかもしれませんが、こういうのも『暖簾に腕押し、糠に釘』と言えるのかもしれません。
どう攻めても手応えがない。効果がない。
おそらく、館雀さんのような方を相手にする時にはもっとも効果的な対処法の一つなのでしょう。相手の言葉には耳を傾けつつ、決してそのペースには乗らないという。
なので、一通り喚き散らした後、菅雀さんは帰っていきました。昨日よりも早い時間で。
それを見送り、私は探偵社に彼女が出ていったと連絡しました。探偵社からも、二十四時間監視を行っているものの、イチコの家を出た後は真っ直ぐ家に帰りその後は特に動きもないという報告でした。さすがに盗聴などによって家の中の様子まで監視していただくつもりはありませんでしたので、現状ではそれが分かれば十分です。
それと同時に、彼女の背景も見えてきました。
彼女の両親は現在離婚協議中のようです。しかし館雀さん自身はそれに反対しているようですね。<片親>というものに対してあまりよくないイメージを持ってらっしゃるようですので、自身の家庭がそうなるのが嫌なのかもしれません。
ですが、両親はそんな彼女の意向にはあまり関心がないようだとも言います。彼女の意見に耳を貸す気がないということでしょうか。
館雀さんがあれほどまでに攻撃的なのは、その辺りの事情も影響してるのかも知れないと感じました。
翌日もまた彼女は来て、やはり同じことをただ並べただけで、山下さんが沙奈子さんを迎えに来るまでに帰ってしまいました。
イチコは言います。
「館雀さんが何を怒ってるのか私にはよく分からないけど、怒りたいっていう気持ちも無視しちゃいけないのかなって思うんだ。
私がこんな風にしてられるのは、お父さんが私の気持ちも感情もちゃんと認めてくれてたからだと思う。
もちろん何でもかんでも許されるわけじゃなかったけど、そういう感情が湧いてしまうこと自体は認めてくれてたんだ。その上でその感情とどう付き合えばいいのかっていうのを教えてもらったんだよ。
館雀さんはそういうのを許してもらえなかったのかなって思った。だから、その分を他人にぶつけてしまうのかなって。
感情に振り回されるのは大変かも知れないけど、感情をなかったことにするのはもっと大変なんだろうな」
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