ラブレター事件 その17
『どうしても分からないって言うんなら、頭の悪いあんたらに特別に教えてあげる! こういう時は取り敢えずまず土下座でしょ!? 床に頭をこすり付けて詫びなさいよ!! それが人間として当たり前の姿だよね!!』
これはむしろ、
ですが、フミがカーッと顔を紅潮させて、
「な…な……!!」
と言葉を詰まらせます。感情が昂り過ぎて思考がまとまらなくなったのでしょう。しかしこれは正直言ってマズい状態です。ここでもし、フミが館雀さんに対して危害を加えるような発言をしてしまうと、それは<相互挑発>、つまり<単なる喧嘩>となってしまい、訴えることができなくなってしまう可能性があるのです。
けれど、フミが何かを口走るより先に、イチコが、
「え~? 謝罪っていうのは自分が間違ってましたって認めることだよね? 私、別に間違ったことした覚えないんだけどな」
さらりと返します。
これには今度は館雀さんが顔を真っ赤にする番でした。
「ふざけんな!! 人の手紙を勝手に見といて『自分は悪くない』とかふざけんな!!」
けれどイチコは揺らぎません。
「じゃあ、宛名も差出人名もない手紙が自分の靴箱に入ってたらどうしたらいいのかな?」
「そんなことも分かんないのかよ!! 常識だろ!!」
「そうなの? 初めて聞いたけど」
「だからお前らは常識ないって言ってんだよ!!」
「そうなんだ。じゃあ、後学のために教えてもらえたら助かるな」
「それくらい自分で調べろ!!」
最後はそう吐き捨てて、館雀さんはまたドアを乱暴に閉めて出ていってしまいました。
それを呆然と見送ったフミが、
「なんなのよ? ホントなんなのよ!? 訳わかんない! どういうことか説明してよ!! なんであんな頭おかしいのがそのままにされてんの!?」
わなわなと体を震わせながら声を上げます。
そんなフミに、イチコは穏やかに、
「まあまあ、ムキになっても疲れるだけだよ」
と声を掛けました。それにカナと私も続きます。
「そうそう。私の兄貴と同じだよ。こっちがいくら苛々しても変わらないって」
「そうですね。相手と同じ土俵に立つ必要はありません。それでは的確な対処が難しくなります。物事は俯瞰で捉えないと」
けれど、フミは納得できないようでした。
「でも…でも……」
涙をにじませながら唇を噛みしめるフミの気持ちも酌んであげたいとは思います。ですが、感情的になるだけでは駄目なのです。
「ありがとう。フミ。私のために怒ってくれてるんだよね。ありがとう」
イチコは、フミの気持ちも受け止めてくれていたのでした。
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