ラブレター事件 その3

『私のところに間違って入ってたから私宛かと思って見ちゃったんだ。ごめんね』


イチコが事情を説明したにも拘らず、その女子生徒は酷く癇癪を起しているようで、


「あんたみたいのがラブレターもらえるとか思ってんの!? 自意識過剰すぎ! 手紙入ってる時点で間違いと気付きなさいよ!!」


などと罵倒が止まりません。


すると、イチコよりも、私の隣でその様子を隠れて窺っていたフミが抑えきれなくなってしまったようです。


「あなたねえ! 自分が間違えて手紙入れたくせに何なのその言い草!! まずは自分が迷惑かけたことを謝るべきでしょ!?」


私とカナが止める間もなく飛び出して、女子生徒に食って掛かったのです。ですが女子生徒はさらに逆上した様子で声を荒げました。


「なにあんたら? 一人で来るのが怖いからって仲間連れてぞろぞろ来たの!? ダッサ。見た目通りのダサさだよね!」


こうなるともう売り言葉に買い言葉と言いますか、フミの方も引っ込みがつかなくなってしまったようですね。


「はあ!? 自分の間違いも謝れない非常識なのが何を寝言並べちゃってんの!? なるほど見た目通りのお子ちゃまってことね!!」


「あらあ! デブスが何か言ってるわあ!」


と、イチコを置き去りにして罵り合いに。


「…はあ……」


そんな光景に、当のイチコは頭を抱えつつ溜息を吐いていました。


なので、


「とにかくお前ら落ち着けよ!」


「そうですね。そんな有様では状況の確認もできません」


カナと私が仲裁に入ります。さすがに二人にそう言われては聞かざるを得なかったフミは「でも…!」と不満気にはしながらも堪えてくださったものの、女子生徒の癇癪は治まらないようでした。


「とにかくこっちは手紙を勝手に見られた被害者なんですからね! 当然の憤りよ!!」


それに対して、


「まだ言うか!?」


と再び噛み付こうとしたフミを、イチコが手をかざして制止します。その上で女子生徒に向かって、


「まあまあ、そろそろ落ち着こうよ。こんなことしててもあなたの本命の人には気持ちは伝わらないからさ」


にっこりと微笑みながらそう言うと、女子生徒が、


「ぐっ…!」


と言葉を呑み込みました。なるほど確かに本命に伝わらないのでは意味がありませんね。それでも怒りが収まらないらしく、明らかに見下した態度で、


「じゃあ、この責任、どう取ってくれんの?」


と訊いてきました。この一方的な態度にフミはさらに顔を真っ赤にし、私と一緒に彼女を抑えているカナは困惑と呆れがごちゃ混ぜになった表情で私を見ました。


どう対応すればいいのか私に訊きたかったのでしょうが、さすがに私もすぐには思いつきません。


けれどイチコはやはり飄々とした感じで、


「う~ん、責任を取ろうにもまず状況を整理しないとね。


私は二年の山仁一弧やまひといちこ。あなたは?」


女子生徒に問い掛けました。


「一年、館雀紅麗かんざくくれい……」


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