ラブレター事件 その4
それにしてもこの
それを説明するのはきっと難しいのでしょうね。おそらくこれはあくまで彼女の気性の問題なのでしょうから。何かでスイッチが入ると、とにかく相手を罵らずにいられないという感じでしょうか。
イチコは尋ねます。
「それじゃ私があなたのその本命の人を呼んでこようか?」
けれど館雀さんは、
「は? あなたなんかが彼に声を掛けるとか何様のつもり!?」
と、にべもありません。これでは対処のしようもありません。
ですが彼女は何かを思い出したのでしょうか、ご自身のスマホを見てハッとなり、
「今日のところはまあいいわ。でも、この責任は取ってもらうわよ! 絶対に!!」
捨て台詞のようにそう言い残し、急ぎ足で立ち去ってしまいました。
後に残された私達は茫然と彼女が去っていった方向を見詰めるしかできませんでした。
しかし館雀さんの姿が完全に見えなくなったところでフミが我に返ったように、
「なんなのあれ!? ホント意味分かんない!!」
声を上げ、わなわなと震えだしました。
「確かに、あれではコミュニケーションの取りようもないですね。『責任を取れ』と言われましても、具体的な条件の提示もないでは対処できません」
私も正直な印象を述べさせていただきます。するとカナも「うんうん」と頷きました。それからおもむろに腕を組んで口を開きます。
「私も兄貴のことで頭に血が上った時とかは自分でも訳分からない感じになることはあるけど、それと同じなのかね」
確かに。カナもお兄さんのことでは冷静さを保てずに感情的になることはあります。ですが、はっきりと申し上げさせていただければ、館雀さんのあれは、カナのそれとはまったく似ていないというのも、素直な気持ちではありますね。
館雀さんは、あまりに理不尽なのです。あれでは道理も何もあったものではありません。
イチコも、しみじみといった感じで呟きます。
「いろんな人がいるってことなのかな。私にはできないなあ、あんな風に怒り続けるのって」
でしょうね。イチコは、一時的に感情が昂ることがあっても、それを持続させることができないタイプのようなのです。イチコにとっては、怒り続けるよりも受け流す方が楽なのだと言います。故に誰かを恨み続けることができないのでしょう。また、そのような経験もない。
イチコは小学校の五年生の時に母親を亡くしています。それ自体はまぎれもなく辛い出来事であったものの、あくまで病気が原因であって恨まなければいけない相手もいません。世の中には、本来は筋違いであっても理由をこじつけてでも誰かの責任にして怨むというようなことをする方もいらっしゃいますが、イチコは違うのです。
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