ラブレター事件 その2

私達が通う高校には、水泳部はあるもののプールがありません。


その為、水泳部は近くの温水プール施設を借りて練習するのですが、さすがに不便さからか正直なところ水泳部は人気がなく、同じくあまり人気のない部が入っている、校舎から最も遠い部室棟に部室がありました。


冷遇されているように思えるでしょうが、学校側としても予算が限られている以上は人気と実績がある部に力を入れる外になく、この辺りはいかんともしがたい面もあるでしょうね。


それについては余談なので置くとして、そんな水泳部部室裏は、わざわざ来る者も少なく、生徒同士の逢瀬の場所として密かに人気なのだそうです。


そんなところに呼び出すというのは、やはりそういうことなのだろうと推測はできます。ただ、宛名も差出人の名もないという点はやはり不審です。手紙そのものには何の仕掛けもなかったものの、ラブレターと誤認した人間がまんまと誘い出されたらそれを笑いものにするといった種類の悪戯である可能性もまだ十分に考えられますね。


故に、イチコだけでなく、私とカナとフミも同行することにしました。一応、本当に待ち合わせだった場合も考慮してイチコ以外は少し離れたところで様子を窺うことにしましたが。


と、水泳部部室のある部室棟の裏手に回ると、そこに女子生徒が一人佇んでいるのが見えました。手紙の主でしょうか。


胸まで伸ばされた髪にややあどけない顔立ちで体も小さく、一年生かと思われるその女子生徒に、イチコは躊躇わずに近付いていきます。


なのに、その女子生徒は自分に近付くイチコに気付き、怪訝そうな顔になったのです。


「この手紙、あなたの?」


イチコは封筒をかざし、女子生徒に声を掛けます。瞬間、女子生徒の顔が険しくなりました。


「それ、どうして!?」


女子生徒の発言に、イチコも、少し離れたところで様子を窺っていた私達もピンと来てしまいました。やはり入れ間違えたのだと。


けれど、事態は思わぬ方向へと動き出したのです。


「どうしてその手紙をあなたが持ってるの!? 何のつもり!?」


それは明らかにケンカ腰と言うか食って掛かるような攻撃的な態度でした。


「ひどい! 私の手紙を勝手に見たのね!? ふざけないでよ! 殺すわよ!!」


「…は…?」


これにはさすがのイチコも面食らっていたようです。


ロクに事情も聞かず一方的に『殺す』とは、随分と飛躍したものですね。とは言えこれで、間違って入れたものだというのは確定だと思われました。なのでイチコは大変な剣幕で噛み付いてくる女子生徒に対しても、


「私のところに間違って入ってたから私宛かと思って見ちゃったんだ。ごめんね」


と、いつもの飄々とした感じで応えたのでした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る