みんなをデブにする悪魔

『これ、私が作ったケーキ』


そう言ってケーキを掲げた千早に、絵里奈さんが、


「ありがとう、千早ちゃん。本当に嬉しい」


と笑顔でおっしゃってくださいました。その目に涙までがうっすらと浮かんでいるように見えます。さらには、


『ありがとう』


とのメッセージが、画面に表示されます。玲那さんのものです。彼女の目にも涙が浮かんでいるようでした。


千早の<想い>が、お二人に届いたのです。




山下さんにケーキをお渡しして、私達はヒロ坊くんの家へと帰りました。後は家族水入らずでのお祝いになりますから。


「玲那さん、喜んでくれたみたい。よかった……」


千早がホッとしたみたいに口にしました。おそらくケーキは大丈夫だろうと思っていても断られたらどうしようという想いもあったのでしょうね。


ですがそれは杞憂でした。


山下家の方々もとてもあたたかい心の持ち主でいらっしゃいます。自身の憂さを晴らす為にわざと他人を攻撃するような人達ではありません。それが分かるからこそ、千早もこうして誕生日をお祝いしたいと思えるのでしょう。


そして彼女は、かつて沙奈子さんに強く当たっていた頃の自分のような人間ではそう思ってもらえないということを今ではよく分かっています。


たとえ誕生日を祝ってもらえても、それはあくまで上辺だけの社交辞令でしかないであろうということも。


他でもない彼女自身が、以前の自分のような相手にはお祝いなどしたくないと考えているのです。


彼女がそれに気付いてくれたことに、私は感謝したいとさえ思います。


『千早……あなたは私の自慢の<妹>です』


そんな風にも思えるのです。




翌日の日曜日。いつものように山下さんの家に千早とヒロ坊くんが昼食を作りに行きます。


すると、玲那さんが、ビデオ通話の画面の向こうで満面の笑みを浮かべながら、


『千早ちゃん、ケーキすっごく美味しかったよ。ありがとう』


とメッセージを送ってくださったのです。さらに、


『だけど千早ちゃん、私達をデブにするつもり? あんな美味しいケーキ、二人でホール食べ切っちゃったよ』


とまで笑顔で。


そんな玲那さんに千早は、


「へっへ~、バレた? 私はみんなをデブにする悪魔なんだよ~♡」


などと、胸を張りながら得意げに。その時、


「ひでー…!」


と声を上げたのはヒロ坊くんでした。ですがその顔は笑っています。そんな様子に、私も自然と顔がほころぶのを感じました。


山下さんと沙奈子さんも、穏やかな笑顔になっているのが分かります。沙奈子さんについては、おそらく彼女をよく知らない人が見るとそうは見えないかもしれませんが、普段からよく見ていると確かに笑顔になっているのが分かるのです。


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