パトロン
『私はみんなをデブにする悪魔なんだよ~♡』
そんなことを言った千早にも、玲那さんは笑顔を崩さないどころか、ますます嬉しそうな表情になって、
『千早ちゃんってば、ケーキ職人とかに向いてるかもよ』
とメッセージを送ってくださいました。
「えへへ♡」
玲那さんのメッセージに、千早は照れくさそうに頬を染めながら、でもとてもいい笑顔を浮かべました。
事実、千早のケーキ作りの腕前は、細かい細工などはまだまだではありつつも、肝心の味については本当にケーキ屋などで売られているものと比べても遜色ない出来だと思います。むしろ甘さ控えめで上品なそれは、私達の間では市販のものより評判がいいのです。私達の舌にはピッタリであると。
だから、
「千早がもし、その道に進みたいというのであれば、私が支援します。パトロンということですね」
と言わせていただいたのです。
すると玲那さんが、感心したように拍手してくださいます。その上で、
『やったじゃん、千早ちゃん』
のメッセージが。
ああ…本当に素晴らしい方です……
今日のメニューは、カレーだそうです。
しかも、沙奈子さんが絵里奈さんから伝授された、ルーから手作りする本格的なカレー。それを今度は沙奈子さんから千早とヒロ坊くんが学び取るのです。
こうして、料理に関しては千早との差は広がるばかりでした。
でも、それでいいと私は思っています。料理の腕については私を圧倒しているという事実が、彼女の自尊心を健全に保ってくれているというのも事実ですので。
加えて、私が、ヒロ坊くんのこととなると途端に頭が働かなくなったり、先日の旅館での一件のように鼻血を出して倒れてしまったりということも、私が完璧な人間ではないということを表していると思います。
その一方で、私自身も、料理については、およそ食べるのに適さないものしか作れないのであればさすがに問題だとしても、少なくとも食べられる程度のものは作れますので、それで十分だと思いますし、自尊心の面においては特に問題ありません。
もっとも、かつての私であったなら、それさえ許せなかったかもしれませんが。小学五年生の子供に負けるなどということが受け入れられなくて、感情的になってしまっていた可能性もあったでしょう。
それを想像するだけで情けない気分になります。そんな私では、千早はこれほどまでに信頼してくださらなかったに違いありません。
人間である以上、得意なことがあると同時に苦手なことがあるのは当然なのです。かつ、年齢など関係ない。
千早はそれを私に教えてくれているのだと改めて実感します。
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