言語道断
一般に<檜風呂>と呼ばれるそれは、綺麗なうちは気持ちいいのですが、メンテナンスが難しく手間が掛かるため少し手を抜くとすぐに不潔な印象になってしまうものだというのが正直なイメージでした。
しかしこちらの宿のそれは、現在のものが作られてからでもそう年数が経っていないというのもあるのでしょうが、もとより非常に丁寧に手入れが行われていて、とても清潔感に溢れていました。
そうです。これでいいんです。私にとってはこれで十分なのです。
「うわ~♡」
千早も嬉しそうに声を上げました。
「私、これ好き! めっちゃ気に入った♡」
彼女のその言葉が、決め手でした。今後はここを使わせていただくことにしましょう。
別荘よりも近く、かつ、アンナが管理しているそちらにも引けを取らない清潔さをもったこの旅館は、まさしくうってつけの場所でした。
しかも、女将をはじめ従業員が必要以上に馴れ馴れしくしてこないのがいいですね。
世の中には<アットホーム>を売りにして非常に馴れ馴れしくしてきたり、または気遣いのつもりでしつこく用を訊きに来たりするところもありますが、私にとってそれはむしろマイナス要因でしかありません。
用があればこちらから声を掛けるのですから、そうでない時は放っておいてほしいのです。
外国のお客様には、特にそういう方が多いです。必要な時には呼ぶので、それ以外は関わらないでほしいと言う方が。
逆に、日本のお客様の中には、用があっても遠慮して声を掛けない方もいらっしゃいます。
アンナは、その辺りを非常に聡く察知します。求められていない時には非常に控え目に、求められていながらもお客様の方が遠慮なさってらっしゃる場合には敢えて積極的に声掛けをするのです。
この辺りの匙加減は、もはや<才能>レベルの感覚のものでしょうから、いくら教育しても身に付かない方は身に付かないのです。
自分の方から声を掛けなくても察して欲しいと望まれるタイプのお客様には、愛想の悪い、サービスの悪い旅館に思えるでしょう。ですが、ゆっくりと寛ぎたいが故に余計な声掛けはかえって煩わしく感じてしまうお客様にはむしろこれが望ましいのです。
そして私は、後者です。
さらに私は、こちらの旅館についての話題をネット上で検索し、従業員によるものと思しき書き込みがないことも確認しました。
これもまた非常に重要なポイントでです。お客様のプライベートをネット上にリークするような従業員がいる宿泊施設など、言語道断。
二度と利用しません。
しかし、こちらの旅館は、そういうものが一切見当たらなかったのでした。
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