何一つ気取る必要が
土曜日のフミの誕生日パーティについては、予定通り行います。パーティは午前中で、午後から千早と一緒に旅館です。
やや強行スケジュールのようにも思えるかもしれませんが、パーティの疲れを旅館のお風呂で癒すのだと考えれば問題ないのではないでしょうか。
そして土曜日。私がヒロ坊くんの家に行くと、既に千早が来ていて、ケーキの用意を始めていました。
「早いですね、千早」
声を掛けると、
「あったりまえだよ! フミ
と笑顔で応えます。そんな彼女の様子にまた胸があたたかくなります。こんな笑顔ができるようになって本当に良かった。
「何かお手伝いしましょうか?」
とも尋ねますが、それに対しては、
「いいからいいから、プロに任せといて!」
だそうです。
なにが<プロ>なのかはよく分かりませんが、その辺りを気にするのは野暮というものなのでしょうね。
「最近は僕も手を出させてもらえないんだ」
リビングに入ると、そこでいつものように動画を見ていたヒロ坊くんが言いました。
「パティシエの拘りなんだよ、きっと」
「素人はジャマってことだよね」
起きたばかりで揃って酷い頭をしたカナとイチコも続きます。いつものことですが、頭だけでなく格好も酷いです。ブラジャーもせずにヨレヨレのTシャツとジャージのボトムという、とても年頃の女性とは思えない姿。
ですが、それがいいんでしょうね。この家では、何一つ気取る必要がないんです。
イチコは以前からですが、カナまで感化されて、今では家族だけだとショーツ一枚で過ごしているとのこと。
本来なら男性であるお義父さんの前ですらそれだそうです。
お義父さんは言います。
「家族の前でさえ油断できないなんて、少なくとも私はそんな家庭には帰りたくないから」
と。
その辺りは人それぞれでしょうし、私は正直申し上げて今はまだ無理ですが、だからといってイチコやカナが、酷くだらしない恰好をすることについてはそれでいいとも感じています。
なぜなら、カナがとても安心して幸せそうなのですから。
彼女は、自分を女性として見られることに対して嫌悪感があるそうなのです。だからといって決して男性になりたいというわけではなく、性的な意味で女性として見られたくないということでしょうね。
それで言えば、たとえショーツ一枚の格好でいても安心していられるこの家庭は、まさにカナの理想なのでしょう。
そのようなだらしない女性には価値がないとおっしゃる方も世の中にはいらっしゃるでしょう。
ですが、カナもイチコもそう考える方に価値を見出してもらおうとはまったく思っていないのです。
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