生きている人をまず第一に

水曜日。学校が終わってヒロ坊くんの家に来た私に、彼が言いました。


「今度の日曜日はお母さんの命日なんだ。だから土曜日はお墓参りに行ってくるから」


「……え?」


それは、私が、


「土曜日のことは本当にごめんなさい。必ずヒロ坊くんやみんなとも一緒に行きますから」


と改めてお詫びさせていただいたのを受けてのことでした。


そう言えば、お義母さんの命日については詳しいことはお聞きしていませんでした。私の方から尋ねるのは差し出がましいかと思い、訊いてこなかったのです。


ですが、聞いてしまっては抑えられませんでした。


「では、日曜日にお墓参りに行かないのですか?」


「うん。だって日曜日は千早ちゃんと一緒に山下さんのところに行くし」


「ええ? だったらそちらをお休みしてお墓参りに行けばいいと思うんですが……!」


ついそう口走ってしまった私に、彼は言ったのです。


「だって、生きてる人を優先したいってお父さん言ってるし、千早ちゃんも山下さんも楽しみにしてるから、そっちを優先した方がいいって。でも今度の土曜日は千早ちゃんがいないんだったら、その間に行こうってことになって」


「それは……」


お義父さんらしい考え方だと思いました。生きている人をまず第一に考えて、その上でご自身の悼む気持ちを表す。


ですが私は、


「それならば、日曜日に、千早とカナとフミもつれて旅館に行ってきます。そうすれば家族水入らずってできますよね…!」


と言ってしまったのです。


すると、隣でそのやり取りを聞いていたイチコが、


「う~ん、それでもいいと思うけど。お父さんが起きたら訊いてみる」


と。


一緒に聞いていたカナとフミも、


「私らもそれでいいよ。な、フミ?」


「うん。やっぱりせっかく命日が休日と重なってるんなら、その日に行った方がいいと思う」


とのことでした。


ですから、お義父さんがどのように返事をされるか分かりませんが、取り敢えず私は、日曜日にも予約を入れることにします。


お返事を待っていては予約が埋まってしまうかもしれませんし。


幸い、まだ空きがありましたので、私と千早とカナとフミの四人ということでまずは押さえさせていただきました。土曜日に予約を入れた時もそうでしたが、わずか数日前でも予約が取れてしまうというのが、その旅館の経営状況を如実に表していると言えるでしょうね。


そして夕方。お義父さんが起きてこられた時に、イチコがお義父さんに確認したのです。


「OKだって。まあ、私達の方は別に予約とか関係なしに午前中にパッと行って帰ってくるだけのつもりだったし」


とのことでした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る