家庭料理
千早達がゲームに夢中になっている間に気付けばもう夕方になり、しばらく姿が見えなくなっていたアンナがダイニングのテーブルに料理を並べていました。
フレンチというリクエストでしたが、
「さすがに私一人ではすべて用意できませんでしたので下準備とか済んだものを持ってきていただいて、私が仕上げを行いました。皆さんのお口に合えばいいのですが」
と、<コース料理>という形式ではなく、フランスの家庭料理として、ムール・マリニエール(ムール貝の白ワイン蒸し)、スープ・ア・ロニオン(オニオングラタンスープ)、キッシュ・ロレンヌ、グラタン・ドフィノワ(じゃがいものグラタン)、ラタトゥイユ、ブイヤベッス(ブイヤベース)、ブフ・ブルギニヨン(牛肉の赤ワイン煮込み)を用意させていただいたようです。
「うっは~っ! 美味しそう!!」
千早とカナと玲那さんが、そろって声を上げます。千早は、カナとも気が合うらしく、普段の様子はカナの影響を強く受けていますね。そして玲那さんは、そんな千早やカナとよく似ています。
ただ、絵里奈さんと出逢う前の玲那さんは、今とはまったく印象の異なる、とても不穏な目をして相手を睨み付けるような方だったそうですが……
それが今や屈託のない笑顔を浮かべられるのですから、人は常に成長し、変化するのだと分かります。
私がそんなことを思っている間にも、大皿に盛られたそれらを、リクエストに応じてアンナが皆さんに取り分けていきました。
そしてさっそく、
「ウマウマ!」
「美味し~!」
千早とカナが声を上げながらすごい勢いで食べ始めたのです。
決して行儀は良くないですが、今は楽しむのが一番でしょう。
声を出せない玲那さんも、美味しそうに食べてくださいます。
また、
「美味しい?」
と絵里奈さんに尋ねられ、普段はとてもおとなしい沙奈子さんも、
「うん」
と声に出しつつ大きく頷いてくださいました。正直な気持ちだと分かります。
そんな沙奈子さんを、絵里奈さんと山下さんが目を細めて見守りつつ、やはり次々と料理を口に運んでらっしゃいました。
もちろんヒロ坊くんも、イチコも、フミも、とても美味しそうに食べてくださっています。
「マジで美味しいね」
ヒロ坊くんのその言葉に、私が料理を作ったわけではないですが嬉しくなり、胸があたたかくなるのを感じました。
喜んでいただけて本当に良かった……
しかも千早は、
「ねえねえ! これどうやって作るの? 私でも作れる?」
と、ブフ・ブルギニヨンを口にしながらアンナに尋ねたりもしていたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます