リラックス
「うひょ~っ! 美味しそ~」
全員が揃った時、最後に席に着いたカナがそう声を上げました。
少々、品のない様子ではありますが、敢えて何も言いません。今回は家族だけの集まりに準じたものなのですから、堅苦しく考える必要はないと思います。
それに、カナがリラックスして楽しめるのでしたら何よりですし。
海水浴に向かう途中であったようなことは、ここでは心配ありません。だから、
「寛いでいただけたらいいですよ。皆さんそうしていただいています」
と告げさせていただきました。
あまりこのような席には慣れてらっしゃらなかったらしい山下さんご家族も、カナの様子と私の言葉にホッとなさるのが分かります。
そう。ここでは誰もがリラックスしていただきたいのです。
朝食を終えると、あとは自由時間となります。山下さんご家族は部屋に戻られ、ヒロ坊くんと千早とカナとイチコはさっそくゲームを始めました。フミと私もリビングに残り、その様子を見守ります。
私はまた、パソコンでレポートをしたためますが。
そしてしばらくすると、山下さんご家族がリビングを覗き、
「散歩してきても大丈夫ですか?」
と声を掛けてらっしゃいました。
「ええ、どうぞ。気持ちいいですよ」
私は応えさせていただきます。
事実、この辺りは空気も澄んでいて、外国のお客様にも朝の散歩は好評でした。
それから三十分ほどして、
「ただいま」
そう声を掛けながら山下さんご家族が戻ってこられると、今度は千早が、ゲームのコントローラーを置いて、
「ねえねえ、屋敷の周りを見てきていい?」
と私に訊いてきたのです。山下さんご家族が散歩に行ったのが羨ましくなったようですね。
「いいですけど、遠くには行かないでくださいね。携帯は持ってますか? 充電は十分ですか? 電源は切らないでくださいね」
ついつい細かいことを言ってしまいましたが、千早は、
「これで大丈夫だよね?」
私が与えたスマホを掲げ、私に見せました。画面を確認すると、充電は九十八パーセント、電波状態も良好です。念の為、私のスマホで彼女のスマホの位置情報を確認しましたが、しっかりと表示されていましたので、大丈夫でしょう。
「はい、大丈夫ですね」
私が応えると、
「沙奈も一緒に行こ? ヒロも一緒に来るって」
そう言って沙奈子さんも誘いました。
不意にヒロ坊くんの名前を出されたので、『え?』と思ってしまいましたが、ゲームをやってる最中に話をしていたようです。私がレポートの作成に夢中で気付かなかっただけでした。
もっとも、私が『え?』となったのは、千早がヒロ坊くんのことを『ヒロ』と呼んだからというのもありましたが。
最近、千早は彼のことを、時々、『ヒロ』と呼ぶようになっていたのです。
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