ドングリ
これだけ親しくなったのですから、千早が彼のことを『ヒロ』と呼んでも何も不思議はないのですが、不意にそう呼ばれるとついハッとなってしまいますね。
気にするほどのことではないのは分かっていても、私がまだ『ヒロ坊くん』呼びなだけに何となく意識してしまいます。ちょっと先を越されてしまったような気がしてしまって。
ダメですね。こんなことでは。
などと内心で苦笑いをしていると、
「いいよ。でも、危ないことはしないようにね」
山下さんが沙奈子さんにそう告げたので、私としても反対する理由はありません。
そうですね。せっかくですから子供達だけで遊んでいただきましょう。
玄関へと向かう三人を見送ると、すぐに、リビングの窓のところに現れ、そこにしゃがみ込んで何かを拾うのが見えました。
ドングリでした。
三人はドングリを拾い始めたのです。
この屋敷を囲むように植えられた木々はドングリのなるものが多く、ほぼ手付かずのドングリが拾い放題なのでした。
実はこれも、お子様連れのお客様に対するサービスの一環でもあります。洋の東西を問わず、『木の実を拾う』というのは、子供にとっては何か不思議な魅力を感じさせるアトラクションのようですね。
それを見ながら、改めて念の為に、位置情報を確認します、
「ちゃんとGPSは効いてますね」
つい独り言のように声が漏れてしまいました。
しばらくすると、
「うおっ! でっけぇドングリ!!」
千早の声が届いてきます。完全にドングリ拾いだけで楽しめているようですので、安心しました。
と思うと、
「ぎゃーっ! 毛虫ーっ!! 沙奈、気を付けろーっ!!」
とも。
そんな様子が微笑ましくて、頬が緩むのを感じてしまいます。
しかも、ゲームをしていたカナとイチコまでが、
「なんか、あっちも楽しそうだな」
「うん。行ってみる?」
と言って、ゲームを終了させました。
「あ、私も!」
フミも二人と一緒に庭へと出て行きます。
千早達と合流し、皆でドングリ拾いを始めるのが見えました。
と、
「どわっ!! ヘビ!?」
カナの叫び声に私もハッと顔を上げます。確かにこの辺りには、毒は持たないものの蛇が生息しているのです。
しかし、
「って、木の枝かよ。あー、びっくりした」
とのことでした。
『よかった……』
ホッとしている私の耳に、
「え~? ヘビさん見たかったのに~。残念」
というイチコの声。爬虫類などが好きなイチコらしい発言ですね。
するとそこに玲那さんまでが合流していました。
さらにはアンナの姿も。その手にはいくつかの道具が。
それも、お客様に喜んでいただくためのサービスの一環なのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます