無粋な真似

金曜日、早朝。


今日の夕方。山下さんが仕事から帰ってくるのと同時に、私の別荘へと向かうことになります。


しかし、


バリバリバリ、ガーン!!


と、激しい雷雨に私は叩き起こされてしまいました。


予報では確かに荒れるようなことを言っていましたが、それ以上ですね。


ですが、昼以降には回復するとのことですので、そうであること願うだけです。


もし天候が悪くとも、災害が予測されるほどでなければ別荘には向かいます。マイクロバスを手配してあるので、よほどのことがない限り問題ないでしょう。別荘に着いてしまえば逆に、災害時の避難施設としての機能も持たせてある別荘の方がむしろ安心ですし。


と私が考えていたからというわけではないでしょうが、朝の九時までにはほぼ収まり、ヒロ坊くんの家に行く頃には薄曇りといった空模様となっていました。これなら問題ありませんね。


「カミナリ、すごかったね…!」


千早を迎えに行ってそしてヒロ坊くんの家に着くと、出迎えてくれた彼が開口一番、そう言いました。


「だよね! びっくりした。飛び起きちゃったよ。あ、でも、怖くはなかったからね! 寝てたところに急にだったからびっくりしただけだからね…!」


千早がそう強がってみせます。


ですがそのことについては私はあえて、


「そうですね」


と肯定するだけに留めました。子供の強がりにムキになるような無粋な真似はしたくありませんので。


「だよね~、びっくりしたよね~」


ヒロ坊くんも、千早の強がりにことさら触れることはありません。


ですが以前、このようなことがありました。


千早を迎えに行った時、ちょうどトイレに入っていたので家の外で待っていると、六年生と思しき男子が何か言い争っているのが見えたのです。


「俺は怖くないもんね」


「俺もそんなの怖くないよ!」


「嘘吐け! お前ビビってただろ。俺は違うもんね」


「嘘じゃないよ! ビビってない!」


とかなんとか。


何が怖いのか怖くないのかそこまでは判然としませんでしたが、とにかく『怖がってた』『怖がってない』と言い合っていて、非常に険悪なムードだったのです。


しかし私は、ヒロ坊くんとはあまりに違うその男子達の様子に、正直、暗澹たる気持ちになってしまいました。


些細なことなので口出しはしませんが、その些細なことでムキになって言い合う姿は少しも『可愛い』と思えなかったこともまた事実です。


そのようにして言い合うことも<経験>の一つなのかもしれないにしても、残念ながら私は、彼らのような男性を選ぶことは決してないでしょう。互いに相手の言葉に耳を貸さず、相手の人格を認めず、罵り合うような男性は。


彼らはまだ子供でしたからいずれ成長して変わっていく可能性はあるものの、少なくとも今の時点で<器>は感じられませんでしたね。


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