祭りの終わり

「そろそろ帰ろっか~」


ビーチボールバレーで汗を流し、紅潮した顔でカナが言いました。


「分かった~」


千早がそう応えます。


二人がビーチボールバレーに興じていたのを見ていたイチコとフミも、


「だね~」


と応じました。その様子に気付いた私も、時計を確認し、既に夜の七時を回っていることもあって、ヒロ坊くんに、


「帰りましょうか」


と声を掛けました。


「うん」


素直に応じてくれる彼を伴い、山下さんと沙奈子さんも私達の様子に気付いて合流し、皆でヒロ坊くんの家へと帰ることになったのでした。


お祭り自体も夜の八時には終了するそうです。


まだ賑やかさの残る会場を後にし、心地好いけだるさを感じつつ、空に僅かに明るさが残るだけの夕闇の中を歩きます。


「じゃあね~、バイバ~イ」


ヒロ坊くんの家の近くまで来た時、そのまま自宅へと戻る沙奈子さんと山下さんに向かって、千早が大きく手を振りました。沙奈子さんのことが本当に好きなんだなと分かります。


私達も小さく手を振り、二人を見送りました。楽しんでいただけたなら誘った甲斐もあったというものです。誘ったのは千早でしたが。


夕食はお祭りの際に飲食したもので今回は済ませました。いわゆるジャンクフードのようなものでしたが、毎日でなければこういうのもいいでしょう。


そして、私は千早を自宅まで送りに、フミも自宅に帰るためにヒロ坊くん、イチコ、カナとは家の前でお別れです。


「じゃあ、また明日ね」


ヒロ坊くんが笑顔でそうおっしゃってくださったことに、私は心があたたかくなるのを感じました。いつものことですけど、毎日のことですけど、それでも毎回、あたたかくなるのです。これがあるからこそ、私は私でいられるのだと実感します。


「楽しかったね~♡」


「そうですね」


千早の家への道を二人で歩きつつ、言葉を交わしました。


その朗らかさと柔らかさにも、私は心を満たされてるのを感じます。ヒロ坊くんとはまた違う、でも私にとってはかけがえのないあたたかさ。


私とヒロ坊くんだけが幸せであればそれでいい。他はどうなろうと知ったことではない。という考え方では決して得られなかった心地好さ。


今の私の幸せには、千早の存在も欠かすことができないのです。


「次は別荘だね。楽しみ~♡」


自宅の傍まで来て、千早が私を振り返りながらそう言いました。街灯の、決して十分とは言えない光の下でもはっきりと分かる、とてもとても愛らしい笑顔でした。


本当に、かつて沙奈子さんに対してイジメと言っても過言ではない振る舞いをしていた方とはまるで思えません。


この笑顔も守らなくてはいけないと、私は改めて感じたのでした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る