心を守って
大荒れの天気は、その日一日続きました。日が暮れてからも雨が降り続き、結局、またタクシーで千早を家にまで送り届けることになったのです。
しかし翌日はさすがに台風も過ぎ去って、快晴とはいきませんでしたが雨もやみ、結果として大きな被害もなく乗り切ることができました。
するとヒロ坊くんや千早の関心は、早々に次へと移ってしまいます。
「お祭り、楽しみだね」
「だね~♡」
学校が終わってヒロ坊くんの家に来ると、二人は宿題をしながらそんなことを話しています。
<お祭り>というのは、二人が通う小学校の校庭に屋台が立ち並び、ステージが組まれ、お笑い芸人がライブをするなど、本当に<お祭り>が開かれるのです。
ヒロ坊くんは毎年それを楽しみにしているそうでした。
一方、千早は、家のこともあってそれどころじゃなく、また、屋台などで買い物ができるようなお小遣いも渡してもらえなかったそうなので、実は今年初めて行くと決めたとのこと。
子供が気軽にお祭りにもいけなかったという事実に、私は胸が締め付けられる想いでした。
それでも、かつてと比べれば今はまだマシになってきてるそうですし、ヒロ坊くんや私と一緒ではありますがお祭りに行けるのを楽しみにしてくれているのです。
ちなみに、屋台などで買い物をするためのお小遣いはやはりお母さんからはもらえそうにないということで、私が出すことになっています。
世間は『とんでもない母親だ』と非難するでしょうが、そんなことをしたところで何も解決しないであろうことは、近くで見ていた私の偽らざる実感です。そういうことをすればかえって意固地になり、余計に状況を悪くするだけでしょう。
詳しい事情も把握せず憶測だけで好き勝手言うのは悪手であると分かります。
だから私は敢えて直接は干渉しないのです。あくまで千早を支え、千早が変わることで結果的に彼女の家庭が変わるのをただ見守ると決めていました。
あくまで何か重大な事件にならないうちだけですが。
もし、<事件>が起こるようであれば、その時はそれこそ容赦はしません。公権力に入ってもらい、徹底的に全てを白日の下に晒すことも厭いません。
先日の、お母さんが急病人に対して見事な救急対応した件があっても、それはそれ、これはこれというものです。
ただし、そうならないように祈っているのも事実ですね。
千早のことは、ヒロ坊くんも守ってくれます。
お母さんやお姉さん方からの暴力から守るというのはさすがに無理ですが、千早の<心>を彼は守ってくれるのです。
「あはは、なにこれ~!」
宿題を終えて二人で動画を見ながら、ヒロ坊くんが笑います。
それと一緒に、千早も笑顔になるのです。
そうやって彼は、千早を守ってくれているのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます