この方々が幸せに
沙奈子さんの作る人形用のドレスがフリマサイトですぐ売れるという話を聞いた私の頭の中では、様々な考えが駆け巡っていました。
実際に事業展開する場合の計画についてまで具体的に。
その上で言わせていただいたのです。
「私は、『愛さえあればお金なんて要らない』とか軽々しく言う人は嫌いです。
お金は必要なものです。弁護士を雇うのにもお金は要ります。『お金さえあれば愛なんて要らない』というのは個人の自由なので勝手にしていただいて構いませんが、逆はあり得ません。
現在の社会においてお金を否定するということは、狩猟社会において狩りをしないというのと同じだと私は思います。必要以上に求めるのは浅ましいとも確かに思いますが、最低限、生きる為には必要なものなのです」
それは、遠回しに、玲那さんのことをお話しさせていただいたものでもありました。前科が付いてしまった為に再就職が難しくなった玲那さんに仕事を作るという意味でもあるのです。
そしてそのことは、山下さんもかねてより懸念していたことでもありました。
だからこそ、
「……ありがとうございます。もし、そういうことになれば、その時はよろしくお願います」
と頭を下げてくださったのでしょう。
玲那さんも察していらっしゃったらしく、
『なんかますますピカには頭が上がらないよ。どうやったらこの恩を返せるのかも分からない』
と、メッセージをいただきました。
だけど私は、恩を売るつもりは毛頭ありません。
「これは<恩>などではありませんので、気になさらないでください。あくまでビジネスの話です。私自身にも利があると思えばこその提案なのです。気にしていただけるのなら、実際にビジネスとして動きだした時に、契約に基いて確実に履行していただければ何も問題はありません。それこそが双方にとっての利となるのですから」
そのように告げさせていただいた私に、山下さんも玲那さんも、真摯な視線を向けてくださいました。この時の視線からも、私は、山下家の皆さんの誠実さを強く感じるのです。
などと、そういう<大人の事情>とは関係なしに、千早達は肉じゃがを完成させ、私達はそれをいただきました。
ビデオ通話の画面の向こうでは、玲那さんも、千早達が作る肉じゃがのお手本となった絵里奈さんによる肉じゃがを召し上がってらっしゃいます。
私は改めて思いました。
『この方々が幸せになれないような社会では駄目です。私は、この方々にこそ幸せになってもらいたい。それこそがヒロ坊くんの幸せにもつながるハズです』
と。
そして、沙奈子さんや千早を大切に想う彼の想いに応えることこそが、私自身の幸せにもつながるのですから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます