一人勝ち
「千早ちゃん、ケーキ屋さんになれるかも」
千早のケーキを食べながら、ヒロ坊くんがそんなことを言います。
「え~? そうかなあ」
照れくさそうに頭を掻きながらも、千早もまんざらではないようでした。
でも確かに、無駄に甘いばかりではなく、控えめで上品な味に仕上がっているのも事実なので、スーパーなどで売られている大量生産品のそれと比べても決して負けてはいないでしょう。
デコレーションについてはまだまだ拙いところもあるものの、それは今後、上達していくに違いありません。彼女にやる気さえあるならば。
だから私も言ったのです。
「もし、千早が将来、自分の店を持つとなれば、私が出資します。なので、本気で考えてみてもいいのでは?」
私の言葉に、カナが、
「お~! そりゃいい! 千早のケーキをいろんな人に食べてもらえるじゃん!」
と、まるで自分のことのように嬉しそうに声を上げました。
「カナ姉ってば、気が早すぎだよ!」
千早は顔を赤く染めながらカナをたしなめます。
だけど、
「でも冗談抜きで、この味なら勝負できると思う。この感じのケーキってあんまり食べたことない気がするんだよね。激烈に甘いのもたまに食べたくなるけど、ちょくちょく食べるんだったら私はこっちの方が好きだな」
フミも真面目な表情でそう言ってきました。
それでも千早は、
「も~! みんなしておだてようとすんのはヤメてよ! 照れるじゃん!」
などと声を上げたのでした。
ここで調子に乗って天狗にならないこともまた、千早の成長ぶりを表してるのではないでしょうか。
私はそれも嬉しいのです。
正直、料理に関しては、千早は既に私の一歩も二歩も先を行っています。でも不思議と焦りや嫉妬のようなものは感じません。娘の成長を喜ぶ母親の気分とは、こういうものなのかもしれないですね。
私がそんなことを思っていると、ヒロ坊くんも改めて、
「千早ちゃんのケーキ、また食べたいよ」
と満面の笑みで言ったのです。
それに対しても、嫉妬のようなものは湧いてきませんでした。彼と千早が仲良くしていても、もう、完全に姉弟のようにしか見えてこないのですから。
ヒロ坊くんと沙奈子さんの関係も、ただただ<仲のいい友達>にしか見えない状態です。沙奈子さんが彼のことを異性としてまったく意識していないのが普段の様子から伝わってきます。
沙奈子さんの場合は、むしろ、山下さんに対する信頼が非常に強く、むしろ山下さんを見る目に<憧れ>や<愛情>のようなものすら感じると言った方がいいでしょうか。もっともそれも、『異性として見てる』というのとは違うでしょうが。
とにかく、千早も沙奈子さんも、彼のことを男性としては意識していないのが分かります。
だからと言って、私の一人勝ちだと思い上がるつもりもありませんが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます