海の予定
なお、ここまでお話ししていませんでしたが、実は玲那さんは今、『喋る』ことができません。声を発することができないのです。
と言うのも、実のお父さんを包丁で刺してしまった時、続けて自らの喉も刺し、自殺を図ったからでした。その際の傷と、救命を優先した治療の影響で声帯がズタズタに破壊され、もはや修復が望めなくなってしまったそうです。
私は、それについても非常に残念に思いました。
幼い頃から両親をはじめとした多数の大人達から苛烈な虐待を受け、心身共に深い傷を負った果てに事件を起こしてしまった上にそれですから……
玲那さんご本人はそのことを<当然の報い>と捉え諦観を得ているようですが、私は納得できないのです。
ただ、私には医学的な能力もありませんので、別な方法で玲那さんの<声>を取り戻すべく活動を開始させていただきました。
このことについてはまた順次触れていくことになると思います。
なのでそれは一旦横に置いて、まずは海です。
「僕の夏季休暇は、七月の終わりから八月の頭に掛けてっということになりました。逆に絵里奈の休みはお盆明けということになりましたので、やはりご一緒には……」
夏休みに入る直前、山下さんがそのようにおっしゃいました。ですが私はそれを聞いて、逆に、
「八月一日の火曜日に、私とヒロ坊と千早、イチコ、カナ、フミとで海に行くことを予定してるんですが、保護者として山下さんの同行をお願いしてもよろしいでしょうか?」
と申し上げたのです。
最初に海水浴と別荘の件を提示させていただいた時にはどちらも辞退されていたので、これでダメなら諦めるしかないと思っての提案でした。
するとヒロ坊くんのお父さんもそれに続けて、
「すいません。私が行ければ良かったんですが、急に仕事が入ってしまいまして……もしご迷惑でなければお願いできませんでしょうか?」
と。
さらにはビデオ通話で参加していた絵里奈さんが、
「
そうおっしゃってくださったのです。すると山下さんも決心したように、
「分かりました。じゃあ、沙奈子がOKしてくれたら引率を引き受けます」
と応じてくださいました。
すると待ち受けていたかのようにカナが声を上げます。
「だ~いじょうぶ。沙奈子ちゃんにはもう許可取ってるから。ヒロ坊や千早ちゃんが行くんなら行ってもいいって」
そう、事前に根回しは済んでいたのです。ヒロ坊くんと千早の誘いに、沙奈子さんも応じてくれていたのでした。
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