重い話ばかりでは
長らく重い話が続きましたが、だからといって決して重苦しい雰囲気の中で私達が過ごしていたという訳ではありません。むしろとても穏やかで朗らかだったと言ってもいいでしょう。
だからこそ、カナも玲那さんも正気を保つことができていたのだと思います。そして、千早も。
皆と一緒に過ごすことで、自身の家に帰ることの方を、<気乗りしない外出>と捉えられるようになり、
『しばらく我慢すればいい。そうすればまた<本当の家>に帰れる』
と考えることができていたのでしょう。
ここで言う<本当の家>とは、もちろん、ヒロ坊くんの家のことです。
実はこれは、フミのそれと同じ発想です。フミもまた、冷めきった自身の家に帰ることが苦痛で、皆と一緒にいられるヒロ坊くんの家を<本当の家>と考えて、実の家族のいる自宅の方こそが、
『<レンタル家族の仕事>として、役割を演じに行っている』
と自らに言い聞かせることで精神の安定を保っていたのでした。
千早やフミがそれをできるのも、皆が集まるこここそが安らげる場所だったからなのは間違いありません。
そんな訳で、夏休みが近付いた頃、私は、告げさせていただいたのです。
「皆さんをうちの別荘にご招待したいと思います」
と。
それに加えて、
「今年もやはり海に行きたいですね」
とも。
「お~っ! そりゃいいねえ!」
そう声を上げたのはカナでした。
「またあの露天風呂に入りたい!」
フミも嬉しそうに言ってくださいます。
というのも、私の別荘には、規模こそ控えめですが露天風呂があり、去年、イチコとカナとフミを招待した時に大変喜んでいただけたのです。
去年は、あくまで私とイチコとカナとフミの親交を図ることが目的だった為に四人だけでしたが、今年はもちろん、ヒロ坊くんを招待することが一番の目的というのが正直な気持ちでした。
加えて、カナや玲那さんにしっかりと気分転換していただければというのもあります。
それについて、ビデオ通話で参加していた絵里奈さんと玲那さんは、
「気持ちは嬉しいですけど、私達が一緒に行くと迷惑になるでしょうから……」
そう言って最初は辞退されました。ですが私としてはお二人を放っておくことはできません。
「その点については問題ありません。私の別荘は隣家とも十分に離れていますし、三千院の辺りなので人目もほとんどありませんから」
このようにして、お二人を説得させていただきました。
それにより、人目が多く、メイクが崩れて素顔になってしまう可能性のある海についてはやはり辞退するものの、別荘については参加していただけることになったのでした。
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