ただそのままに
ヒロ坊くんは、本当にとても大きな器を備えた方です。
家で、彼のお姉さんであるイチコはおろか、本来は他人であるカナがだらしない恰好をしていてもまるで気にしていません。
「カナ、男の子がいらっしゃるんですからもう少し考えてですね…!」
「え~? ヒロ坊が気にしてないんだから別にいいじゃん。お父さんも気にしてないし」
日曜日、私が彼の家に行くと、上はタンクトップ、下は下着のままという、あまりにもはしたない恰好でカナが寛いでいたので、私は思わず小言が出てしまいしました。
実はそれは、カナだけでなくイチコもなのですが、イチコはそれでも私が来る頃には部屋着にしている普段着に着替えています。
カナは、自分が居候の身分だということをわきまえているのでしょうか?
…いえ、そうではないですね。ここの主である山仁さんも、イチコも、ヒロ坊くんも、既にカナを<家族>として認めているのです。ですから、
『自宅でだらしない恰好で寛ぐ』
ことさえ当然の振る舞いとして受け入れているのでしょう。
ヒロ坊くんは、小学五年生の男の子でありながら、女性が下着姿でいても、いえ、それどころか一緒にお風呂に入ってもまるで平然としているそうです。
「ヒロ坊くんは気にならないのですか?」
そう尋ねる私に、彼はむしろ不思議そうに小首をかしげて、
「何が?」
と訊き返してきました。
彼にとっては女性の裸体さえ、
『あって当然のものだから特段気にする必要もない』
との認識のようです。三年生まで、家族三人で一緒にお風呂に入っていたそうですし。つまりイチコが中学三年の時までです。それで見慣れてしまったらしいのです。しかも、ただ『見慣れた』だけでなく、
『そこにあって当然のものは、必要以上に特別視しなくてもいい』
という感覚のようでした。
それが、この、<山仁家>の感覚なのです。
そこにあって当然のものは、変に持ち上げたり、逆に蔑んだりする必要はないと。
だから彼は、自身の前にあるものはただそのままに受け入れるのです。
たとえ、<犯罪者の妹>であっても、ただただ一人の人間として。
故に彼は、学校でも誰かをからかったり蔑んだりすることはありません。千早が沙奈子さんをイジメていたという事実があっても、沙奈子さんが、クラスの誰とも口もきこうとせずに打ち解けようとしていなかったとしても。
「千早は沙奈子さんをイジメていたのですよね? それなのにどうしてヒロ坊くんは、千早とも沙奈子さんとも友達になれたのですか?」
以前、私がそんな風に問い掛けた時にも、彼はこともなげに、
「だってもう、
と答えただけなのでした。
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