支え合わなければ

そんな風に四人で一緒に夕食を作るのも日課で、そして勉強がある日は大抵、前日に作ったカレーやシチューを温め直していただくという形になります。


ちなみに、イチコとカナはそもそも料理作りを諦めているらしく、手伝うこともありません。その代わり、二人は家の掃除を行ってくれます。それにより山仁やまひとさんは、作家としての仕事に集中できるというわけですね。


この家では、大人も子供もきちんと自らの役割を承知し、手分けして自分達の生活を守るのです。


『子供の仕事は勉強だから、勉強だけしていればいい』


『遊ぶのが子供の仕事だから、遊んでいればいい』


のどちらでもなく、皆、『自分にできることをする』のです。


以前、山仁さん親子の三人だけだった時には家事の全ても山仁さんが行っていたものの、その才覚が壊滅的にないらしく、家の中は散らかり放題、食事も殆どがスーパーで買ってきたお惣菜という状態でした。


それが、千早が沙奈子さんにホットケーキ作りを学び始めたこと、そのついでとしてヒロ坊くんもホットケーキや料理作りを学び始めたこと、そして何より、玲那さんの事件やカナのお兄さんの事件があったことで、『お互いに支え合わなければ』という意識が強まり、自然と皆、『自分にできること』をするようになった感じでしょうか。


いえ、ヒロ坊くんや千早にとっては、『遊んでいる』感覚なのかもしれませんが。


そう、大人に命じられたからではなく、遊びの延長として家のことをしているのです。


だから笑顔が絶えず、かつ無理せず続けられているのでしょう。素敵です。


私も将来、家庭を持つようになった時、これを参考にしたいと思います。皆で楽しみながら自分達の暮らしを作り上げていくということを。


「お風呂掃除終わったよ~」


勉強が終わりに近付いた頃、カナがそう言ってリビングに現れました。自然とそうすることが決まった彼女の担当でした。


カナも、ただの<可哀想な子供>として保護されているだけでなく、自らの役目を果たそうとしています。もっとも、彼女の場合は、保護されている間の生活費などをご両親が負担してくれていないという負い目もあってのことかもしれません。学費については変わらず父親名義の口座から引き落とされているものの、食費などについては一切、出していただけていないのです。


にも拘らず、ここでは、


『うちで保護してやってるんだからこのくらい当然だ』


というような発言も空気もありませんでした。逆に、だからこそカナも申し訳なさを感じていたのでしょうね。


そして私も、自分にできることをするのです。


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