恋のライバル
沙奈子さんの家庭は本当に複雑で、それを上手く説明できる自信はありませんが、一応は説明しておきたいと思います。
事情を知らない他人からは非常に奇異にも見える家族関係であると思われますが、山下達さんと絵里奈さんを両親とし、玲那さんと沙奈子さんが姉妹という形で成立した<山下家>は、それが本来の姿であったかのように紛れもない<家族>として幸せを得ていたのです。
それが故に、玲那さんが、
『実の父親を包丁で刺す』
という事件を起こしてしまってもなお、家族としての絆は揺らぐどころかさらに強固になったように思われます。
たとえ、幼い頃から虐待を受けたことで強く心を閉ざしていた沙奈子さんが、山下さん、絵里奈さん、玲那さんからの愛情によって明るくなりかけていたところに、玲那さんの事件に伴う<世間からの敵意>に再び心を閉ざしてしまうということがあっても……
そんな沙奈子さんを、今、ヒロ坊くんと千早も支えようとしています。実際、学校では二人が沙奈子さんの良き理解者として存在しているのです。
ただ、実は、ヒロ坊くんと千早の間で起こったトラブルは、沙奈子さんを巡ってのことでもありました。当時、ヒロ坊くんを<自分に都合のいい可愛い弟>のように感じて独占しようとしていたところに沙奈子さんが現れ、ヒロ坊くんが彼女を気に掛けていたことに嫉妬して沙奈子さんにきつく当たったりもしたことがきっかけになったのでした。
それが今では、千早は、自らの本当の望み、
『優しいお姉さんが欲しい』
に気付いて私を姉として慕うことで彼のことについては割り切ることができ、それによって生じた心の余裕でもって沙奈子さんを支えることができるようになっていたというのが、大まかな事情なのでした。
つまり、千早は今、<彼を巡っての恋のライバル>ではなくなっていたのです。
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