断罪
恋愛ものの物語として考えるなら、千早が私にとっての<恋のライバル>の座から降りるようになった経緯を詳しくなぞるべきなのかもしれませんが、それについては沙奈子さんの身の上に起こったことについて詳しく触れる必要も出てきてしまうでしょう。
千早の変化は、単純に私を<姉>として慕うことによってのみ起こったことではないのです。沙奈子さんとの関係もまた、強く影響していたのですから。
世間的に見れば、千早は沙奈子さんに対する<イジメ加害者>でもありました。一般的にはきっと<正義>の名の下に千早は侮蔑と義憤の対象となると思われます。
しかし、私は、自らの過去を思えば千早を強く責めることはできません。私にその資格はないのです。私が、イチコ達や御手洗さんにしてしまったことを思えば……
そんな私にできるのは、千早に、それ以上の過ちを犯させないように導いてあげることだけでした。
……いえ、<導く>なんていうのもおこがましいですね。どちらかといえば、千早と共に私も自らの過去を悔い改めていくと言った方が正しいかもしれません。
私は今、自らを<咎人>と捉えて、それを贖う為に努力していると言ってもいいでしょう。玲那さんの為に弁護士を雇い探偵を雇ったのもそれが理由の一つです。
ただ同時に、一方的に恵む形になるというのも望ましくはないと思いますので、弁護費用については分割という形で今後弁済していただくことになっていますが。それを、山下さんも望んでらっしゃいます。
これから後も様々な困難はあると思いますが、玲那さんを巡る件については、一定の目途がついたと考えてもいいのではないでしょうか。
ですが、その一方で、カナのお兄さんを巡る件については、泥沼化の様相を呈していたのでした。
何しろ、自らの容疑を一切否認し、
『あの女が誘ったから俺はそれに乗っただけだ』
などと、被害女性に全責任を転嫁するような主張をし、家裁での審判を滞らせているのですから。
おそらく、今後、未成年者による非行案件として家裁レベルで決着をつけるのではなく、成人と同じように刑事被告人として通常の裁判を受ける流れになるでしょう。
虐待被害者でありながら自らの罪と正面から向き合い、処断されることを望んだ玲那さんの潔さに比べれば、なんと身勝手で往生際が悪くて浅ましいことだと憤らずにはいられません。
こういう輩こそ、それこそ『法律など抜きにして容赦なく断罪してしまえばいい!』と私も思ってしまうのですが、それでは駄目なのだと、今の私には分かってしまうのでした。
それを認めてしまっては、きっと、玲那さんも執行猶予付きの有罪判決では済まなかったでしょうから。
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