それでこそ

玲那さんが釈放されたことをイチコ達は素直に喜んでいましたが、私は決して浮かれることができませんでした。


「無罪を勝ち取れなかったのは残念です。ごめんなさい。私の力が足りませんでした」


そう、玲那さんに対して頭を下げずにいられなかったのです。


すると山下さんが慌てた様子で、


「いえいえ、星谷さんのおかげで執行猶予がついたみたいなもんだと思います!」


と声を上げて、スマホからも、


「星谷さんには何もかもお世話になりっぱなしです。私たちの方こそ謝らなきゃいけないです!」


と、絵里奈さんがやはり慌てた様子でおっしゃってくださいました。


私は、それがまた申し訳なくて……


そんな私に、山仁やまひとさんが声を掛けてくださいます。


「星谷さんは、普通ならできないことをしてきたんだと思いますよ。それだけでも大変なことです。相手が実際に重傷を負った殺人未遂事件で、たった一年六ヶ月の懲役、しかも執行猶予付きの判決が出ただけでも相当なことですよ。そんなに自分を卑下しなくてもいいと私は思います」


するとカナも、


「そうだよ! ピカは私のクズ兄貴の為にも弁護士まで雇ってくれたんだ。本当なら私の親がしなきゃいけないことを代わりにやってくれたんだよ。そこまでやってまだダメとか、ピカは自分に厳しすぎだよ……!」


と。さらにはフミとイチコも、


「そうだよ、ピカ。あんたはよく頑張ってる」


「ピカがダメだったら、私達なんてそれこそ何もできてないよ」


と言ってくださいました。


『ああ……私が今の私になれたのは、この人達のおかげなんですね……』


そんな風に改めて実感します。


お兄さんの起こした事件により家庭が崩壊したカナも、家族と<家庭内断絶>状態で孤立しているフミも、小学生の頃に母親を亡くしたイチコも、奥さんを亡くされた山仁さんも、それぞれが困難と立ち向かっています。


私は、そのような方々に囲まれて本当に幸運でした。


そしてこのような中にいるからこそ、ヒロ坊くんはあんなに素晴らしい男性なのでしょう。


彼らは決して聖人君子ではありません。人としては正直褒められない部分も持った、あくまで<普通の人>でもあるのは間違いないのです。それでもなお、人として外してはいけない部分をしっかりと保っているのも事実だと感じます。私はそんな彼らに恥じない人間でありたい。


そしてそれでこそ彼に相応しい人間になれるのだと思うのです。


だから私は挫けてはいられません。


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