有罪判決

『主文。被告人を懲役一年六月に処する。なお、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する』


それが、沙奈子さんのお姉さん、山下玲那やましたれいなさんに下された判決でした。


裁判そのものは、玲那さん自身が非常に協力的だったこともあってスムーズに進み、大方の予想通り、執行猶予付きの有罪判決が下されることになったのです。


その判決理由が述べられた最後、裁判長が言ったそうです。


『あなたがしてしまったことは、どんな理由があろうとも正当化されることはありません。ですが私は、この裁判を通じてあなたがその罪に真摯に向き合い、心から反省していると感じました。それは裁判員の皆さんの一致した心証でもあります。私たちはあなたの誠実さを信じ、必ず立ち直ってくださると信じています。どうか、これからの人生をより良いものにしていってください』


と。


多くの場合は、それはある意味では社交辞令的な建前を含んだものであるようですが、玲那さんに対しての裁判長の言葉には、裁判官及び裁判員全員の正直な心情が込められたものといえたのでしょう。


私自身、それが当然だと感じます。玲那さんがどういう方なのかを知っていましたから。


判決が出た翌日、沙奈子さんの血縁上の叔父さんで、今では実質的な<お父さん>でもある山下達やましたいたるさんが、イチコの家に集まっていた私達のところに訪れて、


「昨日、判決が出ました。懲役一年六月、執行猶予三年です。それを受けて玲那は釈放されました。今は絵里奈の家にいます。なので…」


と頭を下げながらおっしゃいました。


それからスマホを取り出し電話を掛け、ビデオ通話に切り替えてその画面を私達へと向けます。


そこには、二人の女性の姿が映し出されていました。


一人は、山下さんの奥さんで、山下絵里奈やましたえりなさん。そしてもう一人が、今回の事件の中心となった方、山下玲那さんです。


「この度は、本当にありがとうございました。皆さんのおかげで玲那は無事、こうして釈放されました」


絵里奈さんが、深々と頭を下げながら謝辞を述べます。それと合わせて、玲那さんも頭を下げてくださいました。


「うおっしゃーっ! 玲那さん、おかえりなさい!」


突然、そう声を上げたのはカナでした。玲那さんは、執行猶予付きの有罪判決が出たことで即日釈放され、カナはそれを喜んでいるのです。


続けて山仁やまひとさんが、


「お疲れ様でした」


イチコが、


「おかえりなさい」


フミが、


「おめでとうございます!」


と、それぞれ玲那さんの釈放を喜んでいたのでした。


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