それぞれの立場 それぞれの想い

沙奈子さんのお姉さんは、自らを厳しく罰してくれることを望んでいるそうです。


それを聞けば、きっと多くの人が、


『自分の父親を殺そうとするような鬼畜は、さっさと死刑にでもすればいい』


と思うでしょう。正直、かつては私もそう思っていました。それこそが<正義>であると疑いもなく信じていました。


ですが、沙奈子さんのお姉さんがどれほどの目に遭ってきたのかということを知るにつれ、


『そんな彼女に罰を与えるのが正義だなどと、本当に言えるのでしょうか…?』


と今は思います。


本当に幼い頃からただ一方的に嬲られ続けた彼女がようやくその復讐を成し遂げようとしたことが、しかも結果として失敗してしまったことが、命まで奪われなければならないほどの<罪>なのでしょうか。


もし万が一、彼女が死刑になるようなことがあれば、沙奈子さんはそんな人間社会をどう思うでしょうか。


そして何より、そんなことで苦しむ沙奈子さんを見てヒロ坊くんはどう思うでしょうか。


『嫌です……苦しむ沙奈子さんを見てヒロ坊くんが悲しむ姿なんて、見たくもありません……!』


そう思えば、私の中にふつふつと力が湧いてくるのを感じます。


だからこそ私は、私にできるすべてのことで、彼の笑顔を守る為に努力するのです。


「母様、お願いがあります…」


母にそう申し出て、それまで母の名義で出願して母の口座へと入金されていた特許料のすべてを私の口座に移していただくことをお願いし承諾していただいて、それを使って弁護士と探偵を雇い、沙奈子さんのお姉さんの裁判に協力することにしたのです。


それと同時に、カナのお兄さんの事件についても、弁護士を派遣させていただきました。


ただしこちらは、決して<無罪>を勝ち取る為ではありません。逆に、カナのお兄さんのしたことの全容を裁判で徹底的に明らかにして処断していただくことが目的ですが。


カナもそれを望んでいます。


「本当は私の手で殺してやりたいくらいだけど、それはダメなんだよな……だったらせめて裁判で目一杯厳しい判決が下って欲しい」


とのことでしたので。


カナがそこまで言うのは、実は彼女自身がお兄さんの被害を受けていたからです。幸いそれは未遂に終わったものの、彼女に、お兄さんに対する激しい憎悪を植え付けたのは確かだったのでしょう。


つまり、今、私のすぐ身近には、<犯罪加害者>、<犯罪被害者>、そして<犯罪加害者家族>が揃い、私はそれらを客観的に見ることができる立場にいたのです。


さらには、私自身が、その全員の背景までもよく知っているのですから、それぞれの<想い>さえも手に取るように分かるのです。


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