アトラクション その2

『とにかくそいつが盗ったことは間違いねーんだよ!』


そんなことを言って、ここで私が、


『じゃあその証拠を見せてください』


と言ったらどうするつもりなのでしょうか?


『見せる必要はない』とか言って突っぱねるのでしょうか?


それでもいいんですが、ここは敢えてもっと押させていただきましょう。


「被害届を出すか出さないかは、この家の家長であるあなたのお母さんに決めていただくべきなんじゃないですか? あなたのお小遣いは元はと言えばお母さんのお金でしょう? では私は今からあなたのお母さんにお会いして、被害届けを出すように進言してまいります」


「……く…!」


自分が何を言ってもひるむ様子を全く見せない私に彼女の顔は紅潮し、声が大きくなっていきます。


「お前みたいのが言ったってお母さんが聞くわけないだろ! 頭おかしいと思われるだけだろ! 警察だってこのくらいのことでまともに捜査とかするかよ!」


ほんとに諦めの悪い人ですね。やれやれです。仕方がないので私は誰もが知っている日本でも最大手の家電メーカーの名前を出し、言いました。


「私の父がそこの重役ですので、結構警察にも顔がきくんですよ。だから私の方からも警察にお願いすれば、無下に扱われることもありません。きちんと捜査していただけますよ」


私がそう言った途端、彼女はそれまでの焦った様子から一転して顔を上げ、


「…はっ!」


と、勝ち誇ったような下品な笑みを浮かべながら私を見下すように、


「バーカ! 誰がそんなホラ信じるかよ。警察でも何でも行ってみろよ。頭のおかしいオバチャン!」


と開き直ったのでした。


まさにその時、一台の車がこの家の前に止まり、中から男性が二人、飛び出してきました。そしてそのうちの一人が私に近付いて立ち、もう一人は鋭い視線で周りの様子をうかがいながら身構えたのです。


それは、ヘルメットをかぶり、明らかにプロテクターの役目をするのが分かる厚みのある、有名警備会社のロゴの入った制服に身を包み警棒を手にした、いかにも屈強そうな警備員でした。私のそばに立った方の警備員の男性が、私に向かって声を掛けます。


「大丈夫ですか? お客様」


私はにっこりと微笑んで、


「はい、大丈夫です。ありがとうございます」


と答えさせていただきました。すると警備員の男性は、胸にかかった無線機を手に取り、


「こちら高橋、お客様の無事を確認しました。現在全周警戒中。どうぞ」


と緊張感のある声で話しました。すると無線機からも、ザッと短いノイズのあとで、


「了解しました。これにて訓練は終了です。お客様の安全を確認後、通常業務に戻ってください」


というオペレーターの声が私の耳にも届きました。警備員の男性はもう一度周囲を注意深く見回した後、「安全確認ヨシ!」と一声発し、ようやく緊張感を解いたのでした。警棒を片手に周囲を警戒していたもう一人の警備員の男性も緊張を解き、二人ともうって変わった穏やかな表情で私に向かって敬礼をしてくださいました。


「さすがですね。本当に素晴らしいタイミングで駆けつけていただけました。ありがとうございました」


私も改めてお礼をさせていただきます。すると二人は、恐縮したように微笑んだのでした。


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