アトラクション その3

『ありがとうございました』


私がニッコリと微笑みながら言うと、警備員は、


「いえ、これが私共の業務ですから」


と、冷静を装いつつも少しはにかんだような、隠しきれない微かな笑顔を見せながら応えてくださいました。


そしてその様子を茫然と見ていた千早さんのお姉さんにも敬礼して、


「お騒がせして申し訳ございませんでした。訓練にご協力いただき、ありがとうございました」


と丁寧に挨拶し、頭を下げました。


その後、自動車に乗り込み走り去っていくのを見送った私は、いまだに呆気にとられた表情を見せる彼女に向き直り、告げたのです。


「父が、私の身に何かあってはいけないと、警護をつけてくださってるんですよ。それで時々、こうやって駆け付け警護の訓練が行われるんです。ごめんなさいね。驚かせてしまったみたいで」


だけど彼女はまだ目の前で起こったことが理解できないのか、「はあ…」と気のない返事をしただけでした。ですが、


「それで、警察に届ける話の続きですが…」


と私が水を向けるとようやく正気に戻ったらしく、慌てて目を逸らして言ったのです。


「あ、ああ…お金、ね。もしかしたら私の勘違いかも知れないから、もう一度探してみるわ」


やれやれ。この期に及んでまだそれですか。本当に往生際の悪い人ですね。


でもまあいいでしょう。私の目的は彼女を屈服させることではありません。


そう、イチコ達と友人になる以前の私なら、もっと徹底的に、それこそ手をついて頭を地面に擦り付けて詫びずにいられなくなるくらいまで追い詰めていたでしょうが、今は千早さんが盗んだのではないと認めさせることができればそれで十分でした。


「そうですか、もしそれでも見付からなかった時は、千早さんを通して再度お知らせください。私の方からも警察にはよろしくお願いさせていただきますから」


そう言って、頭を下げさせていただきました。その時、私の後ろから覗き込んでいた千早さんと目が合いました。その顔がとても嬉しそうに見えて、思わずウインクしていました。


そしてその場を後にしようと背を向けたのですが、最後に申し上げておくことがあるのを思い出して振り返り、


「最初に申し上げました通り、私は千早さんの友達ですので、これからも千早さんの相談に乗らせていただくことがあると思います。その時はまた何かご協力をお願いすることもあると思いますので、よろしくお願いいたしますね。では、失礼いたします」


と、再び頭を下げさせていただいたのでした。


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