アトラクション その1

『あなたが失くされたというお小遣いはどこで見付かりましたか?』


私が放ったその一言に対して彼女が見せた一瞬の表情が、全てを表していました。実はこの時点では何の根拠もない単なるブラフだったのですが。


その種の思い違いは誰にでも起こることですから、まずはその可能性について検証しようと思っただけでした。それがまさかの大当たりだったとは。


「な、なに言ってんだよ、こいつが盗んだんだから見付かるわけねーだろが!」


私の背後にいる千早さんを指差して吠えてらっしゃいますが、残念、舌が回っていませんよ。焦りすぎです。


しかし、これだけ露骨な反応を見せておきながらまだそれを言うからには、素直に認める気はないということですね。分かりました。それならこちらにも考えがあります。


でも、一応は念のために確認させていただきましょう。


「なるほど、まだ見つかってないのですね? そういうことでいいんですね?」


あらゆる嘘を見逃すまいと真っ直ぐに見詰めながら念を押す私に向かって彼女は、


「知らねーよ、そいつが盗ったんだからそいつに聞けよ!」


と吐き捨てるように言いました。ですから私もきっぱりと言わせていただいたのです。


「分かりました。それでは窃盗事件として、正式に警察に訴え出ましょう。きちんと捜査していただいた上で誰が犯人なのかを突き止めていただければ、はっきりするはずですから」


すると彼女も言い返します。


「ば、バカじゃねーの!? こんくらいのことで警察が動くわけねーだろ! 家族の金盗ったって犯罪じゃねーんだよ。そんなことも知らねーのかよ!」


さすがにその程度のことは知ってたのですね。でも甘いですよ。


「おかしいですね? そこまで断言できるのでしたら千早さんが盗んだという明確な証拠があるということですか? そうでなければ、家族以外の何者かによる本当の窃盗事件という可能性もありますよ? 


ご存知ですか? 手慣れた常習犯になると<居空き>と言って昼間で家に人がいても僅かな隙を突いて盗みができたりするそうです。しかも財布とかは残して現金だけを持ち去って、窃盗犯が侵入したということさえ気付かせない場合もあるそうですよ? 


今回の件がそれに当てはまらないというだけの根拠が、あなたにはあるということですね?」


「……!」


理路整然と淀みなく申し上げさせていただく私に彼女が気圧されているのは、誰の目にも明らかだったと思います。なのに彼女は往生際悪く抵抗を試みたのでした。


「とにかくそいつが盗ったことは間違いねーんだよ! だから警察が来るわけねーって。被害届とか出さねーし!」


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