昨日の敵は今日の友 その1
彼女が初めてここに来た先週の日曜日とは別の意味で、この日も異様な雰囲気でした。
私と、彼と、イチコと、
先週のような険悪な雰囲気ではないものの、今回のこれは<沈痛>という感じでしょうか。
私がこれまで抱いていた、向こう気が強く生意気という印象の石生蔵さんは、そこにはいませんでした。そこにいたのは、何か苦しいものを抱えてうなだれる小さな子供でした。
その彼女の頭を、彼が「よしよし」という感じで撫でています。
なのにこの時の私は、そんな光景を見ても不思議と落ち着いていました。もちろんいい気はしなかったのですが、だからと言って感情を乱される感じもなかったのです。
また、いつもならこういう時はイチコの出番だと思ったのですが、この時はなぜか口を開こうとはしませんでした。そこで私は、思い切って自分で声を掛けてみたのでした。
「石生蔵さん、もし何か辛いことがあったのなら、話してみませんか? ヒロ坊くんもイチコお姉さんも、話を聞いてくれると思いますよ? もし私がいたら話しにくい事だったら、私は席を外しますし」
私が石生蔵さんの様子がこれまでと違うことに戸惑っていたのと同じように、きっと石生蔵さんも私の変わりように驚いていたと思います。それどころか不信感を抱かれていてもおかしくないでしょう。
だから話の内容に関わらず、私がここにいては話しにくいのであれば、今日のところはもう帰ってもいいとさえ思っていました。彼の顔が見られたからそれで十分と思えました。そこで私はお暇しようと立ち上がろうとしたのです。
「……あ…!」
でもその時、石生蔵さんが慌てた感じで小さな声を上げて、私を見たのです。しかもその目は、まるで助けを求めようとするような、すがるような、振り切ることをためらわせる視線でした。
なぜ彼女が私にそんな視線を向けたのかこの時は分かりませんでしたけど、それを無視する気にもなれず、私は再び腰を下ろします。
すると、石生蔵さんが口を開きました。
「……お姉ちゃんが…わたしがおこづかいとったって…わたしとってないのに、お姉ちゃんのサイフからとったって…とってないって言ったら、『ウソつくな!』ってたたかれて…わたし、とってないもん…本当にとってないもん……」
そこまで語ったところで、彼女の目からまたポロポロと大きな涙がこぼれ落ち、ひくっひくっとしゃくりあげ、それ以上しゃべれなくなってしまったようでした。
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