昨日の敵は今日の友 その2
「石生蔵さんかわいそう…」
彼はそう言って、ポロポロと涙をこぼす石生蔵さんの頭を再び撫でます。彼の慈しみの心が形になったかのような光景でした。
けれどこの時はそれに見とれていられる気分ではなかったのです。
「……」
「……」
私はイチコと顔を見合わせました。
これは難しい話です。
本来、家族内で金品を盗んだ云々は刑法上の犯罪にならないはずでした。だからあくまでそれぞれ家庭内で解決すべき問題だと言えるのでしょう。
しかし、今回、石生蔵さんはお姉さんのお小遣いと盗ってはいないと言っています。しかもこの様子を見るとさすがに嘘を吐いているとも思えません。
とは言え、盗んだことは物証があれば証明できますけど、盗んでないことを証明するのは容易ではありません。行為そのものが行われてないのですから、証拠自体が存在しえないわけですし。
『こういう場合の対処方法は……』
物理的にそれを行うことが不可能であると証明できればいいのですが、同居している家族であればその機会はいくらでもあるでしょう。『不可能である』ことを立証するのは難しいでしょうか。
けれど、証拠もなく石生蔵さんを叩いたということであれば、それは躾の範疇を逸脱していると私も考えます。
家族であっても暴行傷害は成立しますから、もしそのようなことが日常的に行われているのであれば、司法が介入するべき案件の可能性さえあります。とすれば、
『これは、子供同士の問題ではなく、子供同士で解決すべき問題でもなく、大人が介入しなければならない事案ですね……』
と私は考えました。
彼と石生蔵さんの時の問題とは違い、今の私は自分でも分かるくらいとても冷静です。そして今日は、到底彼の勉強を見ていられるような空気でないことも感じます。
『ならば……!』
私は、心を決めました。
彼に撫でられながら泣きじゃくる彼女に向かって、私は静かに語り掛けます。
「石生蔵さん、大丈夫です。私に任せてください。私がお姉さんの誤解を解いて差し上げます」
その私の言葉に、彼女は涙をぬぐいながら顔を上げ、
「本当…?」
と訊き返してきました。もちろん私は大きく頷き、
「本当です」
と答えさせていただきました。
「……ピカ…?」
そんな私を見るイチコの表情が少し不安そうに見えましたので、イチコに対してもきっぱりと告げさせていただいたのです。
「大丈夫です。今の私はとても落ち着いていますよ。それに、私のライバルが傷付けられたのを黙って見過ごすこともできません。それに今回の件は、私だからこそできることがあります。お任せください」
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