和解の夏 その3

『ま…負けた…』


いえ、負けたかどうかはよく分からないけれど、何故か負けた気がします。


『山仁さん、そして、彼女にそれを教えたという山仁さんのお父さん。一体何者なのですか……?』


それを知りたくて私は、本気で彼女達のグループに加わることにしたのでした。




しかし、私が素直に負け?を認める気になれてイチコ達との交流を始めようとしていた頃、意図せず蒔いてしまった<種>は着実に実を結ぼうとしていました。


私自身は特に御手洗みたらいさんを追い詰めたりするつもりはありませんでした。ただ、客観的事実として彼女はクラスのリーダーとしては力不足だと感じていましたので、その事実を理解していただきたいとは思っただけです。適性のない人がリーダーを演じるというのは、その集団にとってはもちろん、本人にとっても不幸なことですから。


彼女がしばらく学校を休んでらしたのも、そのことを思い知って、再出発のためにリフレッシュを図ってたのだと考えていました。私はクラスの為にも彼女自身の為にも正しいことをしたとその時は思っていたのです。


それと同時に、状況によっては臨機応変に、こちらが悪くなくても場を収めるために頭を下げることが必要だというのも、合理的な判断としてあるとも思っていました。フミに謝罪した(ふりをした)のもそれでした。だから私は、久しぶりに登校してきた御手洗さんにあえて頭を下げたのです。


「ごめんなさいね。ちょっと出過ぎた真似をしてしまいました。委員長はこれからも御手洗さんに勤めていただいて結構ですから、よろしくお願いしますね」


こういう対応も普通の人にはなかなかできないことだと思っていました。いえ、たとえ<謝罪しているフリ>であっても実際できないことだろうとは今でも思っています。


「……」


けれど御手洗さんは私を見ようともしませんでした。


『やっぱり器の小さな人ですね。委員長の役目はこういう人には荷が重いと思いますけど、ご自身が辞めないのでしたらそれも自己責任というものでしょう。もう私には関係ありません』


そんなことも考えていました。


しかもこの時の私は、イチコ達のことが気になっていて、それどころではありませんでしたし。


その数日後、私は、イチコのグループに加わることに成功し、彼女達の関係性の秘密を、特にこのグループのキーマンであると私が睨んだイチコの秘密を探ることに関心が完全に移っていました。


だから、私のことを見る御手洗さんの視線が普通じゃないことに気付かなかったのでした。


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