和解の夏 その1
「こんにちは。皆さんは本当に仲が良いですね。一体、何故そんなに仲が良いんですか?」
「……え…?」
急に声を掛けたことで警戒されたのでしょうか。田上さん=フミと波多野さん=カナはあからさまに怪訝そうな顔で私を見ました。でもそういう反応をすることは私は予測済みでしたから、別に気になりませんでした。
それよりも分からなかったのは
そして彼女は、本当に何気ない感じで、
「何でって、何でかな? 一緒にいると楽しいから?」
「……!?」
そう答えたイチコに、私は何か得体の知れないものを感じました。
と言うのも、私はあえていきなり脈絡のない抽象的すぎる質問をぶつけることでどういう反応をするか見ようとしたんです。
普通は狼狽えたり、答えを探そうと考え込んだり、フミやカナのように警戒するのが当然の反応です。なのにこの時のイチコは、そういうこともなく、抽象的すぎる私の質問に最も適した抽象的な答えを返してきたんですから。
正直申し上げて、当時の私は彼女のことを、学力では全く見るべきところのない平均的な人だと思ってました。普段の様子も特に目立ったことをする人じゃないと思ってました。
だけど実際に直接話してみた時の彼女は ただ協調性のない、共感性のない、孤立しがちな典型的タイプとも違う印象があったのです。
鷹揚。そう、鷹揚という表現がもっとも相応しいと今なら思います。悠然と空を飛ぶ鷹の様に何ものにも動じない、超然としたその姿。
そのことに気付いた私は、途端に彼女に対して興味が湧いてきたのでした。本音を言えばその時点ではフミのことは意識の外に追いやってしまっていました。
そして、
「皆さんの仲の良さについて、私は大変興味を覚えました。つきましては、私も皆さんの仲間に加えていただけませんか?」
と申し出たんです。その言葉に一番反応したのはフミでした。
「はあ!? あなた自分が私達に何したか忘れたの!? それがいまさら何のつもり!?」
当然の反応だと思います。ですが当然すぎてその時の私は『当たり前すぎる反応ですね』などと考えて受け流してしまっていました。
「おいおい、いくら何でもムシが良すぎだろう?」
カナの反応も普通です。なので、
『さあ、山仁さんはどうですか?』
と、さらにイチコに対する期待が高まってしまいます。
すると彼女は、ただ事もなげに言い放ったのです。
「私は別にいいよ。ちゃんとフミやカナに悪い事したと思っててくれるんだったら」
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